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何だか今日はいつにも増して、車内が混み合っているような気がする。
背後からぐいぐいと、体や手荷物が押しつけられて来る。
特に肩甲骨の下辺りに、執拗に柔らかな二つの塊が擦りつけられていた。
他人の呼気が煩わしい。
「……?」
そこでようやく異変に気づく。
「ハァハァハァ……!」
後ろのヤツ、やたら鼻息が荒くないか?
そして不自然なほどに、接触率が高くないか?
「ええのんか? ここがええのんか……?」
荒い呼吸とともに、背後からアレな声がかけられて来た。
「ちょっとくらいなら、触ってもええねんで……?」
聞き覚えのある声音。
ピキーンと全身が硬直した。
ぎりぎりと、ゼンマイ仕掛けの人形のように首を捩曲げる。
ふり返りたくはない。
決して自ら進んで見たくはない。
だが現在の自分が置かれている状況を確認する為に、俺は勇気を出してふり返った。
すると爛々と輝く紫眼と目が合う。
「…………」
五分前に永遠にお別れしたはずのヤツがいた。
そしてそいつはあろう事か、俺の背中に張りついて体を擦りつけている。
この狭い車内で、公衆の面前で。
裸エプロンで。
狭い空間をフルに使って、ベリーダンスをしていた。
光の速さで腰を振っている。
ちょっと顔がイッちゃっている。
そんな風に脳が現在の状況を知覚した瞬間、
「――――ッ!」
俺の中で何かが弾けた。
咄嗟に突き出した手が、そいつの頭をわし掴む。
そのままぎりぎりと締め上げ始めた。
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