たぶん第1話

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   何だか今日はいつにも増して、車内が混み合っているような気がする。  背後からぐいぐいと、体や手荷物が押しつけられて来る。  特に肩甲骨の下辺りに、執拗に柔らかな二つの塊が擦りつけられていた。  他人の呼気が煩わしい。 「……?」  そこでようやく異変に気づく。 「ハァハァハァ……!」  後ろのヤツ、やたら鼻息が荒くないか?  そして不自然なほどに、接触率が高くないか? 「ええのんか? ここがええのんか……?」  荒い呼吸とともに、背後からアレな声がかけられて来た。 「ちょっとくらいなら、触ってもええねんで……?」  聞き覚えのある声音。  ピキーンと全身が硬直した。  ぎりぎりと、ゼンマイ仕掛けの人形のように首を捩曲げる。  ふり返りたくはない。  決して自ら進んで見たくはない。  だが現在の自分が置かれている状況を確認する為に、俺は勇気を出してふり返った。  すると爛々と輝く紫眼と目が合う。 「…………」  五分前に永遠にお別れしたはずのヤツがいた。  そしてそいつはあろう事か、俺の背中に張りついて体を擦りつけている。  この狭い車内で、公衆の面前で。  裸エプロンで。  狭い空間をフルに使って、ベリーダンスをしていた。  光の速さで腰を振っている。  ちょっと顔がイッちゃっている。  そんな風に脳が現在の状況を知覚した瞬間、 「――――ッ!」  俺の中で何かが弾けた。  咄嗟に突き出した手が、そいつの頭をわし掴む。  そのままぎりぎりと締め上げ始めた。
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