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「あだだだだ……!」
「は・な・れ・ろ――変態!」
右手が人生初の全力を発揮する。
俺の指はこんな力を秘めていたのかと、驚くほどの全力だ。
「イヤッ! 離れない! むしろ離さないで!」
「やかましいわ、変態痴女が!」
ぐいぐいと、頭を掴む手を前方に押し出して行く。
仰け反ろうとする上体に、そいつは首だけで抗っていた。
「す、好きにしていいのよ? あたしと愉しい事しましょうよ! むしろあたしで愉んで……?!」
体を引きはがされて、美少女の両手がワキワキと空をかく。
その時、車内を大きな揺れが襲った。
電車が駅に到着したようだ。
遠心力に引っ張られて、美少女が俺の腕に倒れ込んで来る。
「あぁん!」
あられもない声を上げながら、そいつは素早く俺の体にしがみついた。
両手と両足を絡ませて、大木にしがみつくコアラのように密着する。
「はなれろぉおおお~!!」
「はなすもんかぁあああああ~!!」
ざっと周囲の人々が一斉に後退った。
そのせいで、俺を中心に不自然な空白地帯が出来上がる。
先ほどまですし詰めだった車内が、嘘のような過疎っぷりだ。
違う! 誤解だ!
四方八方から突き刺さる、冷たい視線に冷や汗が滲み出る。
今の俺は世間的に見れば、彼女に裸エプロン姿で電車に乗るように強要した挙げ句、無情にも捨てようとしている最低な男である。
それ以外の何者にも見えませんよね、状況的に。
そして開かれた扉から車内に流れ込んで来る、駅職員と警察官の姿。
「ちょっと話をしようか」
あ、詰んだ。
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