第1章

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「いたいのいたいの、とんでいけー!」 目の前で、転んだ子供を抱きしめて、足をさすりながら、母親らしき人が言った言葉。 そんなんで治ったら、病院要らないじゃん。 親子を冷めた目で見つめる自分と、確かにあの手のひらの温かさを覚えているような懐かしさとで、複雑な気分になる。 いつから、信じられなくなってしまったんだろう? 確かにあの言葉は、私を助けてくれたはずなのに。 親子から視線を外せずに、じっと見つめていた。 子供は落ち着いたのか、涙の滲んだ瞳を光らせて、母親に笑いかける。 「痛くなくなった! 痛いのどこに行ったのかな?」 「さぁ、どこかな? 一緒に探しに行こうか」 「うん!」 元気良く返事をした女の子は、立ち上がって、母親と手をつなぐ。 そうして仲良く私の視界から消えていった。 二人の背中を目で追いながら、最後に母親と手をつないだのはいつだったかな、なんてぼんやりと考えていた。
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