#1 爽子

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暗黙の内に、視線が絡み合った。 夜空を照らす明かりも音も、もう気にならなかった。 集まった金魚たちだけが、何も言わずに二人を見つめている。 それぞれの想いを抱えて。 「――爽子さん。ここにはあなたの痛みを理解してくれている人が、沢山いますよ」 諭すように隆雄は言った。 そっと肩に触れ、押し戻すように爽子を座らせる。 「僕はあなたを『掬う』ことは出来ても……きっと『救う』ことは、出来ない」 言葉を残し、背を向け、隆雄はそのまま去って行こうとする。 「隆雄さん!」 その背中に向けて爽子は叫んだ。 思うような大きな声は出ずに掠れた。 それはそのまま、彼女の胸の悲痛の現れのようだ。 「どうしてですか? 私がそれを望んでも? 隆雄さん!」 逡巡したように隆雄の足は止まる。 それでも振り返ろうとはしない背中に、爽子は裸足のまま駆け寄って縋りついた。 「隆雄さん、隆雄さん!」 何度も繰り返し名前を呼んで泣き縋る爽子を背に感じたまま、男はじっと目を閉じて耐えた。 耐えて耐えて、この泣き声がおさまったら振り返らずに行くつもりだった。 最初から最後の一瞬まで、彼はそのつもりだった。
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