#1 爽子

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「お嬢さん……爽子さん」 庭先から人の気配とともに声をかけられて、爽子は飛び上がらんばかりに驚き小さな悲鳴を上げた。 どこともなしに彷徨わせていた視線を向けた先に半分身を隠すようにして立っていたのは、花火師の隆雄である。 この男は爽子よりも五つほど年上で、爽子と年の近い聡次郎や明仁たちの間では幼い頃からまとめ役のような存在だった。 「隆雄さん。一体何故こちらへ」 「風鈴堂の出店にいらっしゃらなかったので、もしかしたらこちらかと。門をくぐったら通してもらえないかもと思ったのでこんな所から失礼を……」 「まあ、不要な心配ですわ。今は皆祭りへ出向いております。それに、隆雄さんを追い帰すなんて無礼は致しませんよ」 どうぞこちらへ、と、爽子は自分の隣に座るように勧める。 誰もいないと聞いて漸く姿を現した隆雄は、手ぶらではなかった。 「お身体の具合は」 「ご心配をおかけして……今は安定しております」 「それは良かった。自由に外に出られないあなたに、少しでも祭りの雰囲気をお届けしようと」 それは身体の心配なのか、それとも。 いらぬ期待を抱かないように、爽子はすぐに隆雄が差し出したものに目を向けた。 「まあ……やっぱり本物が一番素敵」 金魚掬いの出店があることだけは初めから聞かされていた。 隆雄が最初に差し出したのは、小さな袋の中で泳ぎ回る赤い金魚である。 まだ自分が閉じ込められた檻の小ささに気付いていないのだろうか、その金魚は出口を探し回るかのように忙しなく向きを変えた。 高くかざすとまるで光を帯びて透き通っているかのように見え、爽子はうっとりとしたため息を吐いた。
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