第1章

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 エレベーターの扉が開くとホセが立っていた。  ホールは薄暗く、彼の握っている拳銃の口径まではわからなかったが、この至近距離では関係がない。どんな口径であろうと致命傷を負う。 「こいよ、セバスチャン」  ホセは私の背後にまわり背中に銃口を押し付けた。 「どこへ行くつもりだ?」  私の乾いた声がひとけのない深夜のエレベータホールにこだました。聞いたことのない他人の声に聞こえた。 「わかっているはずだ、そうだろ」 「そういうことか」  ホセが立っていた理由がわかった。それがわかったところでどうしようもないが。  ビルの出入り口に横づけされたレクサスの運転席には、私の知らない日本人が座っていた。上半身だけをみても、ホセとは対照的な巨漢であることがわかった。それがわかったところで、わたしは完全にあきらめた。  言われたとおりに車の後部座席に収まった。さっきまで背中にあった銃口が左の脇腹に移動した。 「出せ」  ホセが巨漢に命じると、レクサスは滑らかに動き出した。 「なあ、ホセ」 「なんだ」 「おれに突き付けているその物騒なものはしまったらどうだ。おまえの左フックをまともに受けたら、どうせ意識はなくなるんだから」 「だめだ」  バンタム級の元世界ランカーは、ぶっきらぼうにそう言った。私がそれで落胆したということはない。まったく予想どおりの答えだったからだ。ただ、何かを話していなければ足が震えだしそうだった。 「おまえのボスは腹を立てているのか?」 「あたりまえだろう。パーティーに招待されたとでも思ったか」 「いや。招待状の代わりに拳銃を突きつけるメッセンジャー・ボーイはいないからな」 「メッセンジャー・ボーイだと? まあいい、車の中では好きなことを言わせておいてやる」 「どこにいたって好きなことを言うよ」 「どうだかな」  車は制限速度を10キロほどオーバーするスピードで静かに走っている。目的地が私が思っているとおりの所なら、あと10分以内には到着するはずだ。 そのあいだに私にできることは何もないように思われた。
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