第1章

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 なにかがおかしいことに気付いたのは、電車を降りた時だった。  会社から帰って自分の家の最寄り駅で降りたはずだったのに、ホームは無人、誰もいなかった。  今日はたまたま、他に降りる奴がいなかっただけだろうか? そう言う事もあるのかな?  だが、駅から出たところで何かがおかしいことに気付いた。風景が違う。  夜だとしても解る……いや、明るい? 夜じゃないのか? これは夕方ぐらいか? 「どうなってるんだ?」  しかも晴れているのに雨が降り始めた。ついてないな。コンビニに行ってビニール傘でも買うか。後の事はそれから考えよう。  コンビニに入ろうとしたら、自動ドアにぶつかった。  なんで開かないんだ? 壊れているのか?  いや、違う。そもそもこれはドアなのか? なんか、ガラスじゃなくて、それっぽく見えるように絵が書いてあるだけじゃないか?  雨足が強まる。  そして俺は見た。電柱が、グニャリと曲がるのを。まるで塗れてふやけた紙のように。  なんだこれ?  ふと気付けば、コンビニの建物も、向かい側のも、水がしみこんで色が変わっていた。  いや、ふやけているのは、風景だけじゃない。俺の体も、何かいろが変わっている。  どうなってるんだ?  わけがわからないまま、今度は全部が赤く濡れていく。  また雨?  いや違う、これは雨水じゃない。赤い色水だ。  俺の上に巨大なジョウロがあって、それが赤い色水をぶちまけているのだ。  町が真っ赤に染まっていく。  巨大な顔が、上から見下ろしている。  引きつって笑みを浮かべている。  なんだよ。ケンイチってこんな顔だっけ? 全然覚えてないけど。  いや違う。何人もいる。  これ、もしかしてリョウタとカンジか? どういう事だ? 「やめろ! おまえらやめろよ!」  俺が叫ぶと、空から声が降ってくる。 「なんだよ、ちょっと濡れてふにゃふにゃになっただけじゃないか」  その声は、俺の声だった。子どものころの俺の声だった。
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