アヤメさん

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私は人に頼られることで心が一番落ち着いた。 どんな人でもいい。 別に利用してるだけでもいい。 その一瞬の期待が、 特技も個性もないせいで邪魔にしかならない私が、 今この場所に生きていることを許してくれている気がした。 そんな地面に足が付いたような安心感が、 確証がないと余計なことを考えてしまって 誰も信じられない私に、 誰も信じられないのに、独りになりたくないから自分を否定し始める私に、 一瞬の生きる意味をくれた。 だから私は他人の役に立ちたくて仕方がなかった。 「アヤメちゃあああん!! あのな、昨日なあ、 敏樹の奴があたしの誕生日忘れてやがったんだよ!? 酷くね?」 「あはは、 それたぶん忘れてるんじゃなくてサプラ… まあ気にしなくて大丈夫だよ。 敏樹君は酒匂ちゃん大好きだから。」 「わかってるけどさあ!! もう、あたし敏樹殴ってくるわ!! なんか腹立つから!! 今日も話聞いてくれてありがとうな!!」 こうして イチャイチャし過ぎて孤立している女の子からでも、ありがとうと言われたその瞬間だけは幸せだ。 「やあアヤメ嬢!! 今日は新作のスプラッター物のエ…げほん。 お子様は出来ないゲーム持ってきましたぞ!!」 「あ、戸塚君ありがとうね。 最近ちょっと戸塚君のこと分かったかな? その…脳みそ食べるとかはまだ怖いけど。」 「ははははっ!! アヤメ嬢はまだ狂気の美しさが理解できないようですね!! でも大丈夫!! ぼくがきっちり教えますからね!!」 趣味が悪すぎて独りになった男の子からでも、 嬉しそうに話相手にされると安心する。 そんな性格の私はカウンセリング部というマイナーな、 存在する意味があってもなくてもいい部活に、 私にとってぴったりの部活に入り、 こうして相談を受けながら高校生活を幸せに送っていた。 「……先輩みたいにアドバイスとかもしようとおもったのに。 結局また話を聞くことしか出来なかったなあ。 なんで私はうんうん頷いて話を聞くことしか出来ないんだろう…」 それなのに私は、 人に頼られていないと、何も掴むものがない所に浮遊しているような不安感に襲われて、 自己嫌悪に沈み混んでいた。 「…それに…なんであんなに素直でいい人達なのに… 私は趣味が悪いと思っちゃうんだろう… なんでアイツは私を『ただの自慢話をして優越感に浸る為の道具だと思ってる』だなんて考えるだろう…」 私は本当に最低な人間だった。
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