Mother Land 1.

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Mother Land 1.

はじめて生きていると実感したのは、死ぬことが恐ろしくなってからだ。死ぬことが恐ろしくなったのは、自分の命よりも大切な人ができたからだ。 その頃は、命に意味を求めるには自分の価値を知りすぎていた。生物が生まれることにも死ぬことにも必要性はないのと同じで、自分にとってすれば、生も死も単なる不運によって自分を訪れた。 だから死ぬのも別に構わなかった。生活していく術を身一つしか持たされずに独りではとても泳げない世の中に放り出され、揉まれて溺れて流れ着いた先に今の自分が居た、こんな境遇のほうにこそぞっとしていたからだ。 なのに、いまでは来ないかも知れない明日を渇望し、明日を約束されている通りすがりの誰かを羨望する。向かう方向の違う自分に誰も追い付いてくることはない。常に背中について回るそれを孤独と気づかないままでいられればもっと楽に死ねたのに、けれどもう願いは生まれてしまったのだ。 生きていたい。一緒に生きていきたいと思える人が、こんな私を選んでくれたから。 「さぁ…衣月さん、やっと会えますよ。引き込んだのは少年期のようで、あなたとあまり変わらないお歳ですが」 「いい…どんな姿でも、それが彼なら」 ただ会いたかった。どんな姿か見てみたかった。話がしたかった。どんな声で私を呼ぶのか聞いてみたかった。 ただそれだけのとても単純でありふれた願いさえ、叶えるために奇跡が必要だった。 「衣月さん、説明したと思いますが……今ここに眠る〝彼〟は、ここに居てここにはいない」 「ーーー分かってる」
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