にちじょー

3/3
前へ
/116ページ
次へ
【07:00】 電車の発車時刻は7時27分。 ギリギリだ。 チャリで間に合うか……!? と、思った矢先、くたびれたノアがうちに帰ってきた。 「親父!駅までお願い!」 「珍しいな、寝坊か?」 「母さんがな」 「酒か」 「さすが親父」 そんなこんなで帰ってきた親父には悪いが、送ってもらったおかげで電車に間に合うことができた。 付け加えるならば、親父は消防士だ。 いつもの車両、いつもの席に座り(この時間、この駅では乗っている人がとても少ない)、一時間の睡眠をとる。 学校の最寄り駅が終点というのは、本当にありがたい。 『終点、終点でございます。忘れ物などお気をつけの上、お降りください』 微妙に大きな放送は、いつものごとく目覚ましだ。 顔を上げると、いつもの光景が広がっている。 ただ人でごった返しているだけだが。 ただこの日、一つだけいつもと違っていた。 原因は間違いなく隣にいる女性だ。 一度見てしまえば目を離せられなくなるほどの美貌。 美しいブロンドの髪は、毛先にいくにつれて銀色へと変わっている。 白く、陶器のような冷たい美しさをたたえる肌の上には、手首から足首まで覆うワンピースのような物を着ているだけで、着飾っていない。 二つの瞳は黒く、しかしどこか煌めくようにも見え、一言で言えば星空、であった。 桃色の薄い唇がふと、動く。 「ああ、やっと見つけました」 「へ?」 女性の表情はほころび、さらにその顔はおれに向けられていた。 「さあ、一旦戻りましょう」 「はい?」 これ、あれか。 イタイ人か。 電波か。 若干、いや、車内の全員がドン引きである。 そそくさと逃げようと立ったおれの手を、女性がつかむ。 その直後、おれの視界はホワイトアウトした。
/116ページ

最初のコメントを投稿しよう!

67人が本棚に入れています
本棚に追加