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【07:00】
電車の発車時刻は7時27分。
ギリギリだ。
チャリで間に合うか……!?
と、思った矢先、くたびれたノアがうちに帰ってきた。
「親父!駅までお願い!」
「珍しいな、寝坊か?」
「母さんがな」
「酒か」
「さすが親父」
そんなこんなで帰ってきた親父には悪いが、送ってもらったおかげで電車に間に合うことができた。
付け加えるならば、親父は消防士だ。
いつもの車両、いつもの席に座り(この時間、この駅では乗っている人がとても少ない)、一時間の睡眠をとる。
学校の最寄り駅が終点というのは、本当にありがたい。
『終点、終点でございます。忘れ物などお気をつけの上、お降りください』
微妙に大きな放送は、いつものごとく目覚ましだ。
顔を上げると、いつもの光景が広がっている。
ただ人でごった返しているだけだが。
ただこの日、一つだけいつもと違っていた。
原因は間違いなく隣にいる女性だ。
一度見てしまえば目を離せられなくなるほどの美貌。
美しいブロンドの髪は、毛先にいくにつれて銀色へと変わっている。
白く、陶器のような冷たい美しさをたたえる肌の上には、手首から足首まで覆うワンピースのような物を着ているだけで、着飾っていない。
二つの瞳は黒く、しかしどこか煌めくようにも見え、一言で言えば星空、であった。
桃色の薄い唇がふと、動く。
「ああ、やっと見つけました」
「へ?」
女性の表情はほころび、さらにその顔はおれに向けられていた。
「さあ、一旦戻りましょう」
「はい?」
これ、あれか。
イタイ人か。
電波か。
若干、いや、車内の全員がドン引きである。
そそくさと逃げようと立ったおれの手を、女性がつかむ。
その直後、おれの視界はホワイトアウトした。
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