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「ねえ見て秋歩(あきほ)ちゃん、」  九月の中旬はいまだ残暑が厳しくて、私は空調の効いたここを天国のようだと思う。  この療養所は空気のよい高台の上にある。  彼女はいつものように窓辺に設えられたベッドの上から外界を眺めて、何かを見つけるたびに私を呼んだ。 「どうしたの?」 「あそこ、なんか不思議な色したネコがいるよ。どうしたんだろ、座ったまんまでぜんぜん動かないや」  南側の一面には針葉樹の森が広がっていて、指さした先には直近の樹木があった。  その根もとにこちらに背を見せてたたずむネコがいる。  たしかに不思議な色だった。  体毛が紫がかった桃色に染まっているのだ。誰かのイタズラなのかな? ひどいことをするなあ。 「森の中に何かあるんじゃない?」
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