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「……なあ、亜弓」
帰りの車中。
病室でのはしゃぎっぷりが嘘のように沈黙していた浩二が、赤信号で止まったときに、不意に声をかけてきた。
できれば今、話したくないんだけど。
でも、さすがに無視するわけにもいかず、
私は、助手席の窓から雨に霞む町並みを見るともなしに見つめながら「うん?」と、気のない返事をした。
その私の反応に、浩二が一つ、長いため息を吐く。
『おいおい、浩二君、辛気くさいなぁ。ため息の数だけ、幸せが逃げていくそうよ』
なんて、いつもなら滑るように出てくる軽口を叩く気力もない私は、ただ、浩二の次の言葉を待った。
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