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 軒下(のきした)で思いだしたように風鈴が鳴っていた。風の弱い蒸し暑い夜である。タツオの部屋は路地に面した二階にあった。エアコンは身体(からだ)が冷えるのが嫌で、眠るときはいれていない。六畳間にはふたつの布団(ふとん)が並べて敷いてあった。タツオは天井を見あげたままいう。 「ジョージ、起きてるか」 「ああ」  きっとそうだろうと思っていた。真夜中をだいぶ過ぎているが、眠れるはずがなかった。目を閉じると同級生の死体が浮かんでくるのだ。夏草を夕立のように濡らしていた大量の血潮と、忘れられない生臭い鉄の臭い。浦上幸彦(うらかみゆきひこ)は今夜見慣れぬ東京下町で、自分の運命が尽きると想像していたのだろうか。ジョージの声は優しかった。
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