第6章

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久々に直樹の顔が間近になって私は照れて目を逸らした。   「優羽、課長の事でさ」 突然伊知子が身を乗り出して小声で話し始める。 私は何を言い出すのか、内心慌てて彼女を見た。   「結構悩んでんだよね」 なぜか深刻な顔をして、直樹にわざとらしい思わせぶりな言い方をした。   「何?どういうこと?」 隣から直樹の声が低く少しイラついているように聞こえた。   「いや、何言ってんの、伊知子。そんなわけないじゃん」   「だってあんた明らかに辛そうにしてるでしょ」 それは本当だけど、これじゃなんか課長が悪いみたいに聞こえるし…。 伊知子には言ってないが、実際私自身の問題なのに。 そう思っていると、ふと…隣に違和感を感じた。 直樹の周りの空気が一瞬変わった気がした。   「そうなの?」 私を見た直樹と目が合った。 直樹の二重の大きな目が私の心のうちを探るように冷たく光っている。   「伊知子はなんか誤解してるし。ホントそんなんじゃないし。仕事が忙しくて疲れが溜まってるだけだよ」   「そうか」 直樹はそれだけ言うと、届いたランチを食べ始めた。 なんとなく空気が重い。 そんな中再び伊知子が話し始める。   「松阪君さあ、島本さんと仲いいよね?」   「まあ、そんな感じ?」 少し間があったが、ちらっと視線を上げただけでそう言うと直樹はご飯を食べ続ける。 わかってた事だけど、本人から聞くってかなりショックだ。   「…って言ってもご飯食べに行ったり、遊びに行ったり?」 しかも、相変わらず直樹の意識はユルイし。 そんな私の気持ちを代弁するように、伊知子は問いただす。   「島本さんのこと好きなんでしょ?」 ストレートすぎる質問に私は思わず耳をふさぎたくなった。 その答えだけは今聞きたくない。   「ごめん、仕事片づけたいから先行くね」 直樹が返事する前に私はバッグを持って立ち上がった。   「優羽?」 伊知子が呼んだのは聞こえたけど、聞こえないふりをして急ぎ足で店を出た。 胸がギュッとなって痛い。 エレベーターに乗り、4階を押す。扉が閉まり一人の空間で冷たい壁にもたれて、やっと…少し冷静になる。   「馬鹿みたい」
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