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「仕方ないなぁ」
会社での課長らしくない小さなつぶやきが聞こえて手が離れて、ほっとした。
が、その離れた手が私の髪をそっとかき上げ耳に触れたかと思うと、息がかかりそうな程近くで
「いつでも電話して」
と低く甘く囁く声がした。
ゾクっとして思わず顔を上げると、彼は色気を放ちながら、少し意地悪くにっこりと笑っている。
私は返す言葉が浮かばず、反射的にただ小さく頷いた。
彼はもう一度意味ありげに微笑むと立ち上がって待っている直樹の方に向かった。
その背中を見上げていた私の視界に入ってきた直樹は、怒ってるような悲しんでいるようなそんな顔をしていた。
「じゃあデスクで」
そう言いながら直樹の肩を叩いた笙さんは、直樹の耳元で何かをささやいた。
それを聞いた直樹は片眉を顰め、一瞬笙さんに冷たい視線を向けたが、そのまま何も言わずついて行った。
そんな二人のやり取りの不自然さは私の心にも何か苦々しさを落としていく。
「笙さん、何を言ったんだろ…」
私は握りしめた缶のミルクティーに呟いた。
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