第1章  

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待ち合わせ時間に5分遅れて着くともう伊知子は注文を済ませていた。 「ごめん」 「夕べ松阪くんと飲んだんでしょ。とりあえずモーニング頼んどいた。カフェラテにしたけどよかった?」 「気が利くね~。伊知子大好き。アラームかけずに結局リビングで寝てたから、朝起きれたのが奇跡で。ソファ取られたからカーペットで倒れてて腰痛いし」 「松阪くんまた泊まったの?あんたたちって」 そこまで言って伊知子が前のめりにじっと私を見つめた。 彼女の肩できれいに巻かれた髪がふわりと揺れた。 今日もつけまつげが決まっている。 「な、なに?」 「男と女捨ててるわね」   「直樹はそうかも知れないけど、私はちがうし…って捨ててるみたいに見える?」 確かに女らしいマドラスチェックのワンピースを着こなして 控えめな色だけどきちんとネイルまで手を抜かない伊知子に比べれば、 髪をバレットでまとめ、白いシャツにデニムを合わせただけの私は 女子力が低いかもしれない。 「ここ1、2年特に。彼氏と別れてから悪化してるわよね。自覚ないの?」 的を射たお言葉だと思う。 確かに3年前に彼と別れてからそういった方面興味ゼロだわ。 仕事も役職ついたし、それどこじゃなかったから。 「優羽も10月で28歳だよ。そんなことでどーすんの。この夏は女子力アップだよ」 痛いところを突かれ、追及をかわそうと試みる。 「う~ん、そうだねぇ。28歳か。伊知子はどう?もう井田さんと結婚の事とか話してるの?」 苦し紛れに言った一言に伊知子は急に暗い顔になった。 「ぜんぜん。早いうちにウエディングドレス着たいんだけど。はっきりしないんだよね、彼」 ため息交じりに呟く。 伊知子にはもう3年付き合ってる井田諒さんという30歳の彼がいる。 合コンで知り合った製薬会社の営業だ。 「伊知子から話せばいいのに。付き合い長いから、きっときっかけがないだけだよ」 「そうかもね。でも、そうじゃなかったら立ち直れないし。なんとなくその話題避けてしまってるかも」 「大丈夫よ。井田さん伊知子にゾッコンだし。私は当分無理だな」 追求をかわしたつもりが、自ら落ち込みネタ作ってしまった。 そんな私の腕を伊知子がポンと叩く。 「何言ってんの。早く食べて女復活の買い物に行くわよ」 伊知子に急かされて、サンドイッチを頬張りカフェラテを飲み干して私たちはショッピングに繰り出した。
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