第3章

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車がマンションの下に着いてライトが消される。 「優羽」 私を見つめる眼鏡の奥の瞳が街灯に揺れているように見える。 笙さんは膝に乗せていた私の手を取り、指先にキスをした。   「君が好きだ。それをいつも忘れないで」 何だか淋しげな表情が気になって、私も彼を黙って見つめた。 それは初めて自分からキスして欲しいと思った瞬間で、彼はそれに気づいたように微笑むと私の頬に手を添えて唇を重ねた。   「香典はバッグに入ってるし…後は…」 寝る前に明日の準備をしながら、ふとクローゼットの横の鏡を見た。 洗ってドライヤーをざっとかけただけのぼさぼさの髪。 洗いっぱなしでも絵になる笙さんとは大違いだ。   『僕のものになって』 昼間ベランダで彼に言われた時、なんて答えたかったのかな、私。 一瞬何かが言葉になって声になりそうだったのに、なぜか今は思い出せない。 蕩けるようなキスをしたり、食事の時の無邪気な笑顔や淋しそうな瞳を見たから?   「好きになっちゃったのかな…」   『君が好きだ』 あんな風にストレートに言われて強引に迫られたりとか今までないから、心が追いつかないまま流されてるだけなのかもしれないって気持ちがどこかにある。 でも、帰りの車でのキスだけは違う気がした。   「今夜はゆっくり眠っておきたいのにな」
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