第1章  

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「そうだ、近々担当部署で懇親会でも開こう。松阪君に幹事頼んでおくよ」 「はい」 “美作さんの企画、僕は好きだな” 課長が去った後も優しい低音が耳に残る。 仕事の事なのにドキドキが止まらない。 あんな素敵な人にそんな風に言われて、すごく幸せな気分になった。 “頑張ろう。自分のベストを惜しまずやりきろう” 我ながら単純だけど、心の中で誓った。 昼休み。 会社のみんなが社食代わりに使っている ビルの1階のレストランに着くと伊知子が手を振ってるのが見えた。 私はテーブルの向かいに座ってホットサンドセットを頼んだ。 早速会議室でのことを彼女に報告した。 「まぁ…うらやましすぎでしょ。そのシチュエーション。私も課長に囁かれた~い」 いやいや囁かれてはないんだけど…。 「よかったね。ここ何週間か優羽ほんとに頑張ってたもの。夜勤の守衛さんの巡回まで粘ってたし。報われたね」 「うん。ありがとう」 親友のしみじみとした言葉にちょっと胸が熱くなる。 ちゃんとわかって見守っててくれたんだ。 「ありがとう」 もう一度お礼を言った。その時、 「ここ入れてくれる?」 私の感慨を吹き飛ばす直樹の暢気な声が頭の上から聞こえた。 仕方なく私が奥に座り直し、席を開けるとドカッと座り、 「ランチにしよっかな~。でもサンド旨そうだな」 私のトレーを見ながら迷っている。 “しまった”と私が思うより早く私のホットサンドを一口かじった。 「ちょっと有り得ないし~」 取り戻したサンドにはくっきり直樹の歯形が…。 「旨いけど、足りないな。やっぱランチにしよう」 何事もなかったかのように、水を持ってきたウエイトレスに ランチの大盛りを注文した。 「う~っ私の貴重なお昼~」 私は残ったサンドを齧る。 「サラダ分けてやるからさぁ」 直樹が“ねっ”と子どもに言い聞かせるように私の顔を覗き込む。 直樹のこういう顔はずるい。 この年になっても中学の時と変わんないあどけない表情をする。 「あなた達ってさあ」 突然、向かいの席から伊知子が呆れたように言った。 「傍から見たらまるでバカップルだよ」 「「はぁ?」」 私たちは同時に声を上げた。 「声揃ってるし」 伊知子がくくくっと笑い出した。 「やめてよ。直樹とかと」
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