690人が本棚に入れています
本棚に追加
「そうだ、近々担当部署で懇親会でも開こう。松阪君に幹事頼んでおくよ」
「はい」
“美作さんの企画、僕は好きだな”
課長が去った後も優しい低音が耳に残る。
仕事の事なのにドキドキが止まらない。
あんな素敵な人にそんな風に言われて、すごく幸せな気分になった。
“頑張ろう。自分のベストを惜しまずやりきろう”
我ながら単純だけど、心の中で誓った。
昼休み。
会社のみんなが社食代わりに使っている
ビルの1階のレストランに着くと伊知子が手を振ってるのが見えた。
私はテーブルの向かいに座ってホットサンドセットを頼んだ。
早速会議室でのことを彼女に報告した。
「まぁ…うらやましすぎでしょ。そのシチュエーション。私も課長に囁かれた~い」
いやいや囁かれてはないんだけど…。
「よかったね。ここ何週間か優羽ほんとに頑張ってたもの。夜勤の守衛さんの巡回まで粘ってたし。報われたね」
「うん。ありがとう」
親友のしみじみとした言葉にちょっと胸が熱くなる。
ちゃんとわかって見守っててくれたんだ。
「ありがとう」
もう一度お礼を言った。その時、
「ここ入れてくれる?」
私の感慨を吹き飛ばす直樹の暢気な声が頭の上から聞こえた。
仕方なく私が奥に座り直し、席を開けるとドカッと座り、
「ランチにしよっかな~。でもサンド旨そうだな」
私のトレーを見ながら迷っている。
“しまった”と私が思うより早く私のホットサンドを一口かじった。
「ちょっと有り得ないし~」
取り戻したサンドにはくっきり直樹の歯形が…。
「旨いけど、足りないな。やっぱランチにしよう」
何事もなかったかのように、水を持ってきたウエイトレスに
ランチの大盛りを注文した。
「う~っ私の貴重なお昼~」
私は残ったサンドを齧る。
「サラダ分けてやるからさぁ」
直樹が“ねっ”と子どもに言い聞かせるように私の顔を覗き込む。
直樹のこういう顔はずるい。
この年になっても中学の時と変わんないあどけない表情をする。
「あなた達ってさあ」
突然、向かいの席から伊知子が呆れたように言った。
「傍から見たらまるでバカップルだよ」
「「はぁ?」」
私たちは同時に声を上げた。
「声揃ってるし」
伊知子がくくくっと笑い出した。
「やめてよ。直樹とかと」
最初のコメントを投稿しよう!