第1章  

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私が言うと直樹が言葉を被せてきた。 「腐れ縁だし。貧乳興味ないし」 「体型は関係ないでしょ。第一あんた見たことあんの?」 カチンと来て、私は思わず彼の手の甲を思い切りつねった。 昔から直樹が私を“貧乳”と呼ぶのが一番腹が立つ。 どうにもできない身体的弱点を上げるなんて卑怯でしょ。 「痛~っ。暴力反対っ。痕ついたぁ」 直樹が横で涙目になって手をさすっている。 伊知子はそんな二人にすっかり呆れながら笑っている。 私はサンドの残りを食べ、ついでに運ばれてきた直樹のサラダを食べて伊知子と一緒に席を立った。 直樹が慌てて呼び止める。 「おい優羽、懇親会は来週の金曜な。19:00に嵯峨野集合。会費5000円飲み放題で。人数知らせてくれ。よろしくな」 「もう、決めたの?仕事早いね。わかった。販促のみんなに連絡しとくわ」 のんびりとした見かけとは違って、直樹は行動力があると思う。 それにぼーっとしてるのかと思ってると大事な所はちゃんと押さえてたり。 営業の成績の良さの秘密はその辺りにあるのだろう。 新商品のプロモの準備が始まり、慌ただしい日々が始まった。 毎日各セクションとの打ち合わせ、各媒体のデザイナーとの打ち合わせが続き、それらがやっと終わりほっとしたら、金曜日の17時になっていた。 「係長、今日楽しみですね」 横の席の部下の瑞希ちゃんが嬉しそうに話しかけてきた。 入社2年目の彼女はキラキラふわふわした見かけのわりになかなかしっかり者で感性も鋭い。 「えーっと、何が?」 パソコンを相手にしていた私は振り向くことなくそう答えた。 「もう、懇親会に決まってるじゃないですか」 「今日だった?まあ久しぶりにみんなと飲めるのは嬉しいけどね。楽しみって?」   「営業部のイケメン達と一緒なんですよ~。期待したいじゃないですか」 「イケメンねぇ?高宮課長は確かにだけど他に誰?」 「松阪係長ですよ~。私結構タイプなんですよね」 直樹??蓼食う虫って言うけど、瑞希ちゃんじゃずいぶん可愛い虫ねと思う。 「やめときなよ。直樹なんか」 思わずそう言った私に瑞希ちゃんが急に近づいてきて小声で囁いた。  
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