第1章

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紫陽花という花を知らない人は居ないだろう。呼び名がわからなくても、名前さえ聞けばああ、そうなんだ頷く人もいるだろう。紫陽花、アジサイだ。梅雨を代表する花と呼べるだろう。花言葉は移り気、冷淡、浮気に元気な女性、家族団欒、辛抱強い愛情に高慢。 そんな花にまつわる物語だ。これは紫陽花と近所に住んでいたお兄さんの物語だ。 物心つくころには花を育てることが好きだった。友達と一緒で遊ぶより、花を眺めていることが好きだった。けっして話相手になってくれないけれど、眺めて世話をしていれば、ちゃんと答えてくれる気がして、私は好きだった。 パンッと頬を叩く音が響き、母が泣き叫ぶ声が聞こえて、父親が怒鳴っている。いつからこうなったかは覚えていない。ただ、それに至った理由だけははっきりしている。 父の浮気に、母の家事の放棄だった。 理由としてはドラマなんかで使い古されることだが、それが現実にやってくるとどれだけ面倒くさいことなのか娘の私は嫌と言うほどに実感することになってしまう。家族団欒という言葉がどこかに置き忘れ、元気な女性だった母は無気力なダメ人間になって、高慢な父は家に寄り付かずに他の女の部屋に入り浸る。 あれだけ仲良しだったのに。アットホームな家庭がそこにあったはずなのに。いつまでも続くものだと思っていたのに。 辛抱強い愛情が、崩壊し、そこには残骸しか残っていない。家事を放棄された家は日をおうごとに汚く、散らかっていき、母はなにもしようとせず、父親は家に帰ってこない。 どうにかしなければ、という気持ちがあったでもどうしていいかいつまでも未定で、逃げるように私も家に寄りつかずに公園に居た。花を見ている時間がどんどん長くなっていった。家庭のことを知られたくないから友達とも疎遠になってもう何もかもめちゃくちゃだ。息苦しくてたまらない。いつまでこんなことが続くんだろうか、そんなことを思いながら日々を過ごし、梅雨の時期がやってきた。 外では雨が降っている、そのため外出ができず、薄汚い部屋で無気力な母と居なければならない。 ゴミの部屋の片隅で膝を抱えた母がブツブツと呟いている、彼女は仕事はしていない世間体を気にした父親が稼いだ金で少なくとも生き長らえているのだ。 離婚してくれればいいのにと、いつからかそう思うようになった。父親と母が別れて、父親のほうにつけばこんな人と別れる
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