第1章

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ことができるだろうか、いや、たぶん、それはダメだ。離婚したとしても父親が私のことを連れて行ってくれるかわからないし、新しい母と一緒になって新しい家庭を築くなんて上手くできるわけがない。父親だってそう思っているから浮気という甘い汁を啜っていて、簡単に割り切れる関係を築いているかもしれないーーーー嫌なことを考えた、頭をかきむしって思考を振り払って目を閉じた。思考を振り払うには眠ることが一番だ。寝過ぎたとしてもそれがいいまぶたを閉じて思考を停止する。 紫陽花だった。真っ赤な紫陽花がそこにあった。私はそれをぼんやりと眺めている血のように赤い紫陽花に私は興奮にも似た感覚を感じていた。もっと、もっと赤く染まればいい。生き血のように赤い紫陽花が咲き誇ればいい。 目を覚ましたとき、母は居なかった。でも、驚いたりはしない、彼女が時々、どこかに出かけては何かしていることは確かだったけれど、私はもう関わりたくなかった。どんなことをしていようとどうでもいいのだ。もう一度、目を閉じる。 クチャ、クチャクチャと租借する音がする、視線をそちらに向ければ母が何かを食べていた。母がこちらを向いて、口を開いた、その中には何かの肉片がこぼれ落ちそうだ。クチャ、クチャクチャと租借する音だけが聞こえてくる。 足元にはなんの肉なのかわからない何かがある。生臭さに鼻を摘まんで外に出た。めちゃくちゃだ。 外は雨が降っていた。傘は差さずに適当に外を歩き回っていると、そこには紫陽花があったけれど、赤くない、普通の紫陽花だ。嫌だ、こんな紫陽花は嫌だ。もっと赤くなければ、ふっと降り続く雨がやんだ。見上げてみるとニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべた男の人が傘をさして見下ろしていた。 「お前はーーーーなんだな」 本名は知らないけれど、その人がお兄さんと呼ばれていることだけは知っていた。彼が何を言ったか聞き取りにくかったが興味がない。どうでもよかったからだ。 全てのことに無関心で、赤い紫陽花だけに興味があった。なぜ、そう思うのか、それは私の家庭が紫陽花の花言葉になぞらえているかもしれない。いつか綺麗な花も枯れ果てるのなら、私の家庭もいつか枯れ果てるのかもしれない。 一日が過ぎた。二日が過ぎた。三日が過ぎた。四日が過ぎた。五日が過ぎた。近くで動物の行方不明が続いている。ある日、突然、飼い主のもとから飼い犬や飼い猫がいなくなる。
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