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六日が過ぎた。家に警察がやってきた。どうやら事情を聞かせてほしいのだ。ここ数日、続いているペット失踪事件について、なんでも近所の人が動物を解体して租借する母の姿を見たというのだ。馬鹿馬鹿しい話だけれど、けっして否定はできない。いつも母が租借していた肉が拉致されて解体された動物のなれの果て言えるのなら、それでもよかった。
この人が逮捕されて、刑務所でも、精神病院にでも放り込まれるのならそれは歓迎する。やっと私は自由になれるはずだった。
好奇の視線が集まる。母が犯人として捕まってしまって、芋づる式に家庭環境すらも洗いざらい掘り返された。父親が愛人の家に入り浸っていたこと、母が家庭を放棄していたこと、私が夜も出歩いていたこと、根ほり葉ほりそれこそピラニアのように群がってくる。願っていた自由なんてどこにもない。
ドンッと、父親の膝が私の顔に刺し貫かれた。視界が真っ白に染まってチカチカと点滅する、髪の毛を捕まれギリギリと持ち上げられた。憤怒に染まった父親の顔がそこにある。浮気相手に愛想をつかされ、築いていたものが崩れ留。
犯罪者としての母は、精神病院という外界との接触を阻止できる城に入れられ、父親は丸裸同然で肉食獣がうろつく広野に捨てられた。犯罪者の家族は同罪だと言わんばかりに、さまざまな推測をかきたてられ、愛おしいペットを喰い殺された被害者達は怒り狂い暴言を吐き散らす。枯れ果てて、腐り始めた私達は強欲な獣達の娯楽という栄養になるのだ。骨の髄までしゃぶり尽くされていらなくなれば捨てられるんだ、そう思うとどうしようもなく胸くそが悪い。
こんな家庭に生まれたから、私は幸せになれないんだ。胸の中に何かが生まれ、芽生える。紫陽花のようにいくらでも広がって、
「その憎しみを誰にぶつけるんだ?」
とそこにはお兄さんが立っていた。
「どういういみよ?」
「あの部屋に住み着いている自縛霊が、そこにやってきた人間達を狂わせる。いったい何度、繰り返すつもりだ」
「…………何度、でもよ」
そうか、そうなんだ。私は、父親も、母もいなかった。ただ、一方的に私がそう思っていただけなんだ。私はもう生きていないんだから、
「私の中にある紫陽花を、真っ赤な紫陽花を咲かせなければならないのよ。邪魔しないで」
「紫陽花、紫陽花ねぇ、そんなのどこにあるんだ?」
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