第1章

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「………………は?」 意味も分からずに聞き返す、そこにある。真っ赤に染まった紫陽花が、 「紫陽花なんて、どこにもない。お前が咲かせようとしているのは血肉に染まった死体の山だけだろが、いや、そうすることで自分のもっとも幸せな思い出を再現しようとしているだけかもしれないな」 と言うと、彼は一枚の画用紙をとりだした。そこ描かれているのはお世辞にも上手い絵じゃない子供が描いたような歪な絵だ。ただ、そこには画用紙、いっぱいに広がった紫陽花。私がいつも夢に見ていた。赤い紫陽花。 「もう、早くしたほうがいい、そちら側に向かえば戻れなくなるーー」 お兄さんの言葉がとぎれた。私の足元に黒い手のようなもやが染み出していた。手足に絡みつくそれらが私の絡みつきまるで、地の底に引きずり込まれそうになる。 「ーーーーっ、どういうことよ。なによこれ」 「当たり前だ。今まで何人、あの世に追いやった? いや、殺してなくてもそれと同じくらいにぶち込んだことは? 人ってやつは意地汚くて、しつこいぞ、あんたが改心しようとそれを許さない連中がいる」 お兄さんの声が聞こえてくる。それは、それは、私が追いやってきた人達? 「そうだ」 私はどうなるの? 「わからん、ただ、お前という意志は真っ黒い何かに飲み込まれて消えるだろうな」 嫌だ。私はただ、紫陽花が見たかっただけなんだ。きれいな紫陽花を、紫陽花、紫陽花を、 「なら、そこから出してやる」 ……………どういうこと? 「だから、こんなことはもうやめろ、これで罪を拭えるわけじゃないだろうが、ちゃんと償え。わかったか」 返事はできない。ただ、頷いた。 ざっ、ざっ、ざっと公園にスコップを振り下ろす音が響く、雨の振りながら彼は一心に穴を掘り進めていた。その隣には小学生くらいの女の子がぼんやりとその光景を見守っている。透ける身体はのまま少女は指差す。 「ここにお前の肉体があるんだな?」 コクンと少女が頷く。事件は数年前にさかのぼる、とある家に仲良しの家族がいた。しかし、その日々はいつまでも続かない家族の一人娘が失踪したのだ。母は狂い、父親は怒ったが、いつまでたっても一人娘は帰ってこない。 いつか、いつか、いつか、いつかいつかいつかいつかいつか、一人娘は帰ってくる。そう信じていたが長続きはせず父親と母は自殺してしまった。 「お前はそれをずっと見ていたんだな」
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