第1章

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一人娘はずっとそこにいた。父親と母にはきがついてもらえなかったが、肉体を失って幽霊になってもそこにいたのだ。 「それも長続きはしない、肉体をうしなった魂は生前、もっとも心残りのあった場所に止まろうとするがそう長続きはできない、感情もなにもかもを少しずつ削られてなくなっていってしまうんだ」 ざっ、ざっ、ざっとスコップのきっさきがある物にぶつかった。お兄さんはそれを掘り進めていく、 「だから、お前は肉体に戻ろうとした。あの部屋に引っ越してきた連中を利用して無くしてしまった肉体を探していたんだ。夢に出てきたという赤い紫陽花はそれを暗示していたんだろうな」 自分の血肉を啜って咲き誇った紫陽花を、夢に見た。しかし、それはうまく行かない。幽霊と生きた人間ではどうしてもズレが生まれてしまい、少女が積み重ねてきた憎しみは人間を狂わせる。 「お前のやったことは許されることじゃないが、もう、自由になってもいいだろ」 少女は、私は頷いた。そこにあった白骨死体にお兄さんが手を合わせてくれる。 「ありがとう」 そう言って少しずつ私は消えていく。誰にも気がついてもらえなくて、寂しくてしかたなかったけれど、やっと自由になれたありがとう。
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