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ただ分かっていたのは――自分が何も知らないということと、自分が壊れていってしまうこと。
無知の知。
知の無知よりよっぽど良い。
「これは茅間君が言っていたらしいのだけれど、人間の価値観というものは、人により違うらしいのです」
唐突に、何の脈絡もなしに、千尋くんが切り出した。
「僕が思うに、それは恋愛観も同じです。何をどう恋愛と呼ぶのか、というのは、それぞれ人によって違うのですからね。だから、まあ、それこそ人にはよりますけれど、本人自身が恋や愛だと感じれば、自ずとそうなるのではないですかね」
――所詮人の脳味噌ですから、ね。
その言葉を聞き終わり、瞬きをしたとき、千尋くんはそこにいなかった。
なに、いつものこと。
価値観。恋愛観。
――恋愛に対する、価値観。
恋愛の価値。
……恋愛に価値などあってたまるものか。
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