第1章

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    靴下の中のペディキュア 「お兄ぃ、AK47のチケット取って送って」 「知るか、自分で取れ」 「じゃあショップ行って、何か買って送って」 「いくか!ボケ。死ね」  こんな捨て台詞を残してオレは東京へ旅立った。大学に行くのだ。    入学式が終わって講堂を出ると、キャンパスには新入生ではない学生があふれていた。  あちこち折りたたみのテーブルを並べて、迷子みたいにウロウロしている新入生を、刑事みたいにテキパキ連行している。  サークルの勧誘だ。   大学に入ったら一生懸命に遊んでやろうと、それだけを楽しみに受験勉強に励んできたが、 別に何をしようという具体的な計画はなかった。サークルなんて考えてなかった。  しかし、知らない土地で、友達もなく一人では遊べない。まずは仲間を作らねば。なんかやろう。  どうせやるならかっこいいのがいい。  サーフィンはかっこいい。  スキーも悪くない。  夏はサーフィン、冬はスキーというのが大学生らしいか。  しかし、どれくらい金が掛かるのだろう。  いずれにしても、うちの貧しい仕送りじゃあ、断食したって足りない。    ぶらぶら見て回っていると、テニスのラケットで、こっちへおいでと呼ぶ人がいたのでついて行った  テニスなら何とかなりそうだ、と思ったが、それでついて行ったのではない。  美人に呼ばれたからだ。  テニスの格好はしていない。長いストレートの髪を背中にたらし、 何とか言う下着みたいな短いワンピースを着て、踏まれたら靴に穴があきそうな細いかかとのハイヒールを履いている。  こんな人は田舎の高校にはいなかった。  テーブルの前のパイプ椅子に座らされて説明を聞いた。  説明をしたのは美人ではなく、ピアスをした日焼け男だった。こんなのも高校にはいなかった。  アルバムをパラパラめくって、 「これは新入生歓迎コンパ、これは新入生歓迎合宿、これは花見、どこだこれは、上野?上野だって。 それでこっちがバーベキュー、これは海水浴、ハワイ、の対岸。ハハ、鎌倉だよ」  テニスには熱心でないらしい。望むところだ。  しかし待てよ。テニスサークルでこれだから、何をやるにしても相当の出費は覚悟しておかなければなるまい。  仕送りだけでは飲み会に行くのも大変だ。  それで、金がナイと言うと、部員は優に二百を超えるが、「ときどき出るらしい」という噂だけの幽霊部員や、
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