第1章

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 と言っても、実は一度も入ったことがない。ファミリーで行くのは焼肉に決まっていた。  友達とそんな所には行かなかった。  一人では入りにくい。こういう場合、入って待っていていいのかも分からなかった。  しかしまだ40分もある。それに外で待つとなると、顔は知らず、母親がくるとは思うが相手の性別さえ実は定かではないので、 目星をつけて誰何するのは難しい。  店員に待ち合わせである旨を告げて席に着いた。  コーヒーを頼むと、メニューを指してドリンクバーになっていますと言う。  そんなシステムは知らなかった。食い物とセットにすると得らしい。  時間はまだある、大丈夫だろうとスパゲティーを頼んだ。  ところが、早そうなのを選んだつもりだったのに、待てど暮らせど持ってこない。20分ほどしてようやく出てきた。  急がねば。  一生懸命に食らいついていると、「待ち合わせ」という女の声が耳に入ったので、びっくりしてレジの方を見ると、 ショートヘアーの、白いスーツの女の人が店員と話していた。  スカートはミニ、ハイヒールのかかとは透明である。  これは違う、とホッとして、またスパをバキュームしていると、ハイヒールの爪先が視界に入ってきた。  上のほうで、「ありがとう」という声がする。  あわてて、ミンチを搾り出す機械みたいな口のまま顔を上げた。  白いスーツが目の前に座って、店員からメニューを受け取っている。  席は他にいくらでも空いている。するとこの人が高校三年生の母親か。  ふがふがしていると、「ゆっくり食べて」と言って、メニューを指して自分も何か注文している。  お姉さんじゃないかしら。         
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