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橘 勝は綺麗な女性の腰に手を回して、妖艶な雰囲気を纏って。
意味ありげな意地悪な表情を浮かべてる。
その完璧な笑みに、女性は簡単に心を許してしまうのだろう。
昼の貴方も。夜の貴方も。
簡単に誰をも惹きつけてしまうその魅力は変わらない。
貴方の周りには、いつも人が集まるね。
それでも、私にはまったく関係ない。
友達でも、ましてや知り合いでもない。
だから、私は見ているだけ。
ただ、それだけなの。
だから、今日も時間が流れて、日付が変わる。
時が流れて、人も変わる。
そして、待っていたら朝が来るのだろう。
いつも変わらない日常。
それが当たり前に来るのだと思っていた。
それは今日の梅雨入り前の木曜日。
午前3時を過ぎた時刻までは。
「お前、ここで何してんの?」
それは本当に突然だった。
私に話しかける相手なんて、本当の一握りで。
いつも話しかけてくる警察の人たちの声色じゃなくて。
だけど、それはとっても聞いたことのある声。
それでもいつも私の世界の外側の声だったから、私は干渉さえしないつもりだった。
「聞いてんの?」
だけどその二度目の問いかけが私には、物凄くしつこく感じて。
「うるさい」
そう相手に向けて言ったら、つい顔を見てしまった。
そこにいたのは、やっぱり私にがいつも見ている橘 勝。
「やっとこっち見た」
橘 勝は、誰もが欲しがる笑顔で、誰もを寄せ付ける笑顔で、私に微笑んだ。
ああ……この人は。
「こっちこいよ」
そういって、腕を引っ張られた。
連れ出された先は、月の下。
眩しい月明かりが、私を襲う。
見たことのない世界が広がって見えた。
キラキラと輝くストリート。
煌めく夜空からこぼれるムーンライト。
何もかもが眩しくて、目を細めた。
私は突然の光に戸惑った。
段々目が慣れてきて、最初に見えたのは、橘 勝の顔だった。
「お前、こっちのほうが綺麗じゃん」
また、そうやって。
「いつもそうやって、女の子口説いてんの?」
彼は唇を近づけてくる。
何だろう、すっごく胸がモヤモヤする。
「だとしたら何?」
私の中で、何かが音を立ててはじけ飛んだ。
「最低ね」
思いっきり橘 勝の頬を叩いていた。
いい音が鳴ったのを鮮明に覚えている。
だけど、それよりも手が凄く痛かった。
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