第一章 From Shadow

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橘 勝は綺麗な女性の腰に手を回して、妖艶な雰囲気を纏って。 意味ありげな意地悪な表情を浮かべてる。 その完璧な笑みに、女性は簡単に心を許してしまうのだろう。 昼の貴方も。夜の貴方も。 簡単に誰をも惹きつけてしまうその魅力は変わらない。 貴方の周りには、いつも人が集まるね。 それでも、私にはまったく関係ない。 友達でも、ましてや知り合いでもない。 だから、私は見ているだけ。 ただ、それだけなの。 だから、今日も時間が流れて、日付が変わる。 時が流れて、人も変わる。 そして、待っていたら朝が来るのだろう。 いつも変わらない日常。 それが当たり前に来るのだと思っていた。 それは今日の梅雨入り前の木曜日。 午前3時を過ぎた時刻までは。 「お前、ここで何してんの?」 それは本当に突然だった。 私に話しかける相手なんて、本当の一握りで。 いつも話しかけてくる警察の人たちの声色じゃなくて。 だけど、それはとっても聞いたことのある声。 それでもいつも私の世界の外側の声だったから、私は干渉さえしないつもりだった。 「聞いてんの?」 だけどその二度目の問いかけが私には、物凄くしつこく感じて。 「うるさい」 そう相手に向けて言ったら、つい顔を見てしまった。 そこにいたのは、やっぱり私にがいつも見ている橘 勝。 「やっとこっち見た」 橘 勝は、誰もが欲しがる笑顔で、誰もを寄せ付ける笑顔で、私に微笑んだ。 ああ……この人は。 「こっちこいよ」 そういって、腕を引っ張られた。 連れ出された先は、月の下。 眩しい月明かりが、私を襲う。 見たことのない世界が広がって見えた。 キラキラと輝くストリート。 煌めく夜空からこぼれるムーンライト。 何もかもが眩しくて、目を細めた。 私は突然の光に戸惑った。 段々目が慣れてきて、最初に見えたのは、橘 勝の顔だった。 「お前、こっちのほうが綺麗じゃん」 また、そうやって。 「いつもそうやって、女の子口説いてんの?」 彼は唇を近づけてくる。 何だろう、すっごく胸がモヤモヤする。 「だとしたら何?」 私の中で、何かが音を立ててはじけ飛んだ。 「最低ね」 思いっきり橘 勝の頬を叩いていた。 いい音が鳴ったのを鮮明に覚えている。 だけど、それよりも手が凄く痛かった。
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