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あたしは町に出て、またあの場所に立ってみる。
藤川さんと出会った、あの場所。
ここでまた頭でもぶつければ、あたしは元に戻れるかもしれない。
……無意味な痛い思いを自分からするつもりもないけど。
「ねぇ彼女、俺と並ぶと絵になると思わない?」
不意にかけられた声。
その言葉にあたしは笑った。
「ナンパ?」
あたしはあたしの隣に立つ人を見ずに聞く。
目の前に流れてくる、隣の人の吸う煙草の煙を見ていた。
「そういうことにしておいてやるよ。結城さんの娘なんだって?」
「…藤川さんもパパのこと知ってるの?」
「まあな。紹介してくれる?」
「あたしの彼氏として?」
横目で藤川さんを見ると、あたしの頭に拳を押しつけてきた。
「いつ?誰が?どこでそうなった?」
藤川さんはサングラスをかけた下からあたしを睨むように見る。
あたしはその目を見てから、あたしにあてられた拳をはらう。
「パパと会うくらい紹介じゃなくても会えるでしょ。…で、どうしてあたしに声をかけてきたの?藤川さん」
「……なんとなく」
「なんとなく?」
「家に持ち帰ろうかと」
藤川さんがそんなことを言うから、あたしは笑った。
「またパスタとシャンパンくれる?」
「乗り気?」
「うん。酔い潰れて眠って、朝に寝ぼけた藤川さんに犯されるの。……嘘」
あたしは藤川さんに赤い舌を見せると歩き出す。
そんなあたしに藤川さんはついてくる。
「嘘かよ。どこいくんだ?」
「……どこいこう?…ついてこなくても大丈夫だよ?」
あたしは藤川さんを振り返り、藤川さんはそんなあたしの隣に並ぶ。
「…もし…、さ。あたしが藤川さんを好きになっても、藤川さんはちゃんと相手してくれないでしょ?」
「こんなオッサンのどこがいいんだか」
はぐらかすような言葉に、あたしはまた藤川さんから顔を逸らして歩く。
たぶん…やっぱりつまらない。
あたしはこの人にとってはただの子供だ。
あたしに気のない男なんて、どんなに男前でもつまらない。
あたしはきっとこのままどんどん老けていくだけなんだ。
恋だとか愛だとか無関係なところに暮らすだけ…。
なんて思っていたあたしの肩は藤川さんにつかまれて、そのまま近くの塀の中へ連れていかれた。
きらびやかなネオンが頭上に煌めく。
ラブホだった。
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