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何事かと思った。
このままここで藤川さんにやられるのかとも思った。
抵抗しようとしたあたしを抑えて、藤川さんは物陰から外の様子を窺ってる。
そう。あたしを連れ込もうとしたわけじゃない。
あたしがそんな藤川さんに気がついて、ひょこっと外を見てみると、ラブホの前で喧嘩するカップルがいた。
そのうち男は無理矢理女の手をひいて、ラブホに入ろうとし、女はすごく嫌がっているかのように抵抗する。
……殴られる。
あたしはひょいっと藤川さんを避けて、路上へと戻り、女に拳を振り上げる男の足元にガスッと蹴りを入れてやった。
男は情けなくバランスをくずして倒れた。
「泣いて嫌がる子になにしようとしてんの?」
「てっめ…っ」
って、今度はあたしに殴りかかってこようとして、あたしはそれを軽々と見切って避ける。
男の拳は壁を叩いた。
女はあたしに助けを求めるかのように、あたしの足に震えながらしがみついてくる。
男は壁を殴った拳を痛がって、ぎゃあぎゃあ言ってた。
うるさい。
あたしは一発男の頬を叩いた。
男は泣きそうになりながら崩れ落ちる。
「その女のほうから誘ってきたのに入らないっていきなり言うからだろっ。なんで俺がこんなめに…」
「あたしの前で女を殴ろうとしたのが悪かっただけでしょ」
「すみませんでした…」
男はしょぼんとなって、あたしに謝ってきて一件落着…かと思えば、そうでもなかった。
「鈴子?」
藤川さんが出てきて女にそう声をかけたから。
女は藤川さんを見て、泣きながら藤川さんに駆け寄る。
…そういうことか。
あたしは前髪をかきあげて、すべてを放置して歩き出す。
どこかに…いないかな?
あたしだけの人。
失恋っていうほどでもないくせに、少し苦しくて淋しくなってしまった。
藤川さんのせいだ。
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