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【Falling snow】 #2
明るく言ったつもりなのに、ぐっさり自分の胸を貫いた。
はぁ……。
もう…、だいぶ夢から覚めたあとのそれもつらい。
あたしにとっては、なんの利もない早起き。
遥にも言わないことのほうが相手のためだってわかってもらいたいくらい。
遥は黙ってしまって、あたしは俯く。
「もう……気にしないで」
「……気にする」
気にされても…、あたしは動けない。
遥だって動けないくせにっ。
言いたい言葉を飲み込んだ。
「じゃあ…あたしの足、舐められる?」
冷えた足を遥の暖かい手のひらが包む。
脛から、爪先へ。
遥の唇があたしの爪先にふれる。
爪先へのキスは服従だと遥は知っているのだろうか?
そこまで考えているわけじゃないだろう。
遥はあたしの足をなまめかしく舐めて、あたしの様子を伺うように、あたしの顔を見る。
そのままあたしをそこに倒して、キスしてこようとした遥の唇を手の平で隠した。
「……もういいよ。痛いだけ。胸が痛い。いらない」
「誘ったのは奈々だって諦めろ」
そんなふうに…言わないでほしい。
「……」
あたしは自分の目のあたりを両手で隠す。
震える唇にキスされて、涙がこぼれた。
キスは優しくて、甘くて。
涙がぼろぼろこぼれた。
頬をつたって落ちる涙を遥が拭う。
「…奈々、かわいい。震えて拒絶してるのに…俺がほしい?」
「……」
「抱きしめてくれたらやめてやる」
あたしは震えながら、これが本当の最後だと、遥の背中に腕を回して、強く強く抱きしめた。
あたしの想いのすべてで抱きしめた。
あたしの頭を、髪を鋤くように、遥の手が撫でた。
遥はあたしを受け止めるつもりだったんだと思う。
里英に嫌われても、あたしが求めるなら…与えるつもりだったんだと思う。
好き?
あたしのこと。
耳元に今も聞こえる遥の声。
大好き。
そう言ってくれたのは、きっと嘘なんかじゃない。
Fin 2010.8.28
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