【Diary】

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『12月26日 俺は奈々の奴隷。 奈々は本当は俺のこと好きじゃない?』 『12月27日 里英と別れたことを里英から聞いたんだろうか? だから怒っている? だから呼び出してくれない? 携帯握って奈々の家の前までいってみた。 俺はどうすればいい?』 『12月31日 また日記サボった。 なんの変化もないから。 俺はおまえになりたい。 今の俺の記憶を持ったまま、奈々のことが好きなまま。 元に戻る時がくるのかな? 俺は俺なのに、俺じゃなくて。 だけど俺なんだ。 今年最後の日に、また意味不明なこと残してる。 奈々がいたから、俺になれた。 最初は本当に、あんまり好きじゃなかった。 よくわからない世界に一人で放り込まれて、自分の記憶がなくて、だけど名前があって、親がいて。 自分が何者で、何をどうすれば正しいのかなんて何もわからなくて。 いきなり奈々の奴隷を押しつけられて、意味わからなくて。 奈々のいうこと、いじめてくるからきいていたけど。 でも、ここにいること。 俺が生きてるっていうこと。 奈々とセックスしてわかった気がする。 それは奈々の欲望だったのかもしれないけど。 俺のこと、いじめただけなのかもしれないけど。 抱きしめてくれたら、俺という存在がここにあるんだって思えた。 奈々を好きだと思う俺は、まちがってる? それでも好きだ。 俺はいつか消えてしまうのか? 元に戻るのか? 奈々といれば、こんな不安になったりしない。 奈々といる時間は、奈々のこと考えてるだけで精一杯。 この日記、奈々にあてたラブレターみたいになってるな。 俺が俺のまま、ずっといられるのなら、いつか奈々に見せたい。 これでも読んで、俺の気持ちを思い知れって。 笑ってくれるかな? 俺は奈々のことが大好きだよ』 俺はその長い日記を読んで、なんか泣きそうになって。 本当、自分がどうすればいいのか、また、まったくわからなくなった。 こいつはいない。 俺の中、生まれたもう一人の自分。 俺の中にはこいつがいるのかもしれない。 だけど、その存在はないんだ。 俺はこいつじゃない。 だけど、こいつを理解できないとはいえない。 俺だから。 こいつは俺で、俺はこいつで。 奈々の記憶だけが、こんなにあるのは、俺が忘れたくなかったから。
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