【Diary】

16/27
前へ
/35ページ
次へ
忘れたくなかったその気持ちは、俺の中に蘇る。 だけど、だからといって、今の俺が里英を受け入れられないわけじゃない。 里英はこいつじゃなくて、俺を望んでいた。 俺を待っていてくれた。 でも…。 俺の中に残る、こいつの記憶が、その中にいる奈々のことが、俺の気持ちを一つにしてくれない。 俺が里英を想うよりも、こいつは奈々を必要としていた。 そういうの、俺、思ったこともないし、かわいくて好きだと思える子とつきあいたかっただけだし。 恋愛に憧れていたから、つきあいたいって思ったようなもの。 たぶん、それが普通で、それはまちがってなんかいない。 忘れたくないっていうほど、俺は里英との距離が近くないだけ。 始めたばかりの恋愛で、うまく接することができなかった1週間。 部活、けっこう真面目にやっていたし、弱くて大きな大会出れなかったけど、練習試合決まって。 それに向けての練習ばかりで、一緒に帰ることもしてなかった。 はっきりいって、ちゃんとつきあってる感じになれたのは、記憶が戻ってから。 里英が見舞いにきてくれてから。 病室で、キスもした。 俺にとっては、それが初めてのキス。 こいつは里英と別れてるけど、里英の気持ち、たぶん、こいつが惹いた。 俺はなにもしてない。 里英は里英を好きな俺が好きで。 奈々は…? 目を閉じて、記憶の中、奈々との思い出、手繰り寄せてみる。 俺には、こいつのように、俺を好きな奈々の気持ちなんて見えなかった。 泣いたり、俯いたり。 でも俺に命令する。 抱きしめて。 キスして。 好きって言って。 好きだから…、望むんだろうけど。 俺が俺じゃないから、泣いたり、俯くんだろうけど。 今の俺が同じことをしたら、奈々は笑うのか? 喜ぶのか? 好きの気持ちは見える。 でも…、諦めてる。 諦めきれない気持ちで、俺を弄ぶ。 強く俺の体に抱きつく、その腕。 その感覚は俺の記憶に、俺の体が覚えてる。 俺はどうすればいい? 俺の気持ちで、里英とつきあえばいいと日記には書いてあった。 でも…、違う。 俺もこいつの気持ち、嘘にしたくない。 奈々に惚れた俺は…確かにいた。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加