【Diary】

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俺の記憶は、俺の目線、俺の視界。 俺がそのとき、そのとき、奈々にどんな顔を見せていたのか、俺にはわからない。 『1月1日 俺は俺として年越し。 新年から意味不明。 思い切って奈々にあけおめメールしてみた。 届かずに戻ってきた。 俺、実は奈々のこと、奈々さんって呼んでる。 奈々って呼びたい。 おまえは普通に奈々って呼んで、奈々も普通に笑うんだろう。 どこで間違った? 今の俺と奈々』 『1月2日 いつか奈々に見せてやるために、奈々のことばかり日記にしていこうと思ってるのに、奈々と話すこともない冬休み。 会えない。会いたい。 そんなことばっかり書いてしまいそう。 早く新学期始まれ。 学校で奈々に声をかけてやる。 奴隷はもう卒業だ』 『1月3日 浮いたり、沈んだり、激しいな。 強気になったり、弱気になったり。 情緒不安定っていうんだろうな。 溜め息ばっかり出てくる。 ねぇ、奈々。 俺の気持ちを嘘にしないで。 俺はここにいる。 奈々を好きな俺はここにいる。 ここで生きている。 伝える。絶対に。 早く会いたい』 そこからあとの日記はない。 伝えた? けど、俺が事故ったのって…。 1月の何日だった? 記憶がない。 手術したあと、意識がないままだった。 記憶喪失になって気がついたら、冬で年が明けていて。 俺は事故の記憶がないか、自分の記憶に問いかける。 目を閉じて。 もしもこいつが、その気持ちをちゃんと伝えて、俺が戻ってきたのなら。 フラれた? 受け入れられた? かわされた? 戻れ、俺の記憶。 俺は自分が事故に遭う瞬間を思い出した。 その感覚も。 俺に向けられた車のライト。 体が凍りついたように動かない。 たった一瞬だ。 胸を強くうって、はね飛ばされた。 痛みはわからない。 痛覚も麻痺するくらいのもの。 人間って脆いと思わされる。 「遥っ!」 その声は奈々だ。 俺のそばにいる。 泣いてる。 ひたすら俺の名前を呼んでる。 …ごめん。奈々。 俺、なんにも言えてない。 呼吸、苦しくて。 笑ってほしいのに、なんかドジって事故って泣かせてる。 カッコ悪い。 伝えたいのに。 君を好きな俺の気持ち。 …俺、本当にマヌケだ。
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