【Diary】

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俺の胸は事故の傷の痛みよりも、深いところで痛い。 嘘にしたくなくて。 偽りなんて言われたくなくて。 あいつの気持ちを無視することなんてできなかった。 あれは俺じゃないけど、俺だ。 俺の目に涙を浮かせるのは、俺なのか、あいつなのか。 ノートの上に雫が落ちた。 そういう目で見たことないし、そういう気持ちを抱いたことないって言い切れるのに…言い切れない。 嘘じゃないって、強く俺の胸にあいつが訴えかける。 学校、その帰り道、俺は里英と歩く。 俺は話しかける言葉をもてなくて、里英が俺に話しかけてくれる。 俺が惚れて、つきあったはずなのに。 俺のこと、わかっているのかいないのか、里英は俺に笑いかける。 本当によく笑うんだなって、初めて気がついたような気がする。 「あのさ、里英」 「ん?どうしたの?」 「少しだけ記憶喪失になっていた間のことを思い出した」 俺が言うと、里英は笑顔をなくして俯いた。 「…別れてた?俺と里英」 里英は頷いて。 その顔を上げて俺を見てくる。 「あの時の遥が奈々を好きだったのは知ってる。言われなくてもわかる。 今の遥は?あたしが好きなの?奈々が好きなの?」 かなりはっきりと聞いてくれる。 俺の知ってる、1ヶ月のつきあいの里英や、入院中の里英にイメージしたものとは全然違う。 これが本当の里英なんだろう。 ただ笑って、優しいだけじゃない。 はっきりと物を言うし、俺の記憶があるのに、曖昧になるのが嫌なんだろう。 きっと、たぶん、ずっと里英が聞きたかったこと。 俺は自分の気持ちを考えて、目を伏せる。 「伝えてはいないけど、俺、たぶん奈々にはフラレる。里英のこと、好きだけど、キープみたいにはできない」 「…もっと、わかりやすく言ってくれていいよ」 「里英より奈々に惚れてる」 俺は言われたとおりに、はっきりとそれを口にして。 里英の気持ちを考えると、すごく最低だって思えた。 俺じゃない俺が奈々に惚れた。 俺は俺で里英を好きだと言い続けられればいいのに、あいつの気持ちの大きさに飲まれる。 俺はそこまで里英を好きだと言ってやれない。 正直、奈々を好きだと今の俺が言う言葉でもないとは思うけど。 奈々に何もなかったと言われたくもない。 まとまらない2つの気持ち。 なら、大きいほうを選ぶ。
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