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「別れない。遥が奈々を好きでも、別れたくないっ!」
里英は涙を浮かべて、大きな声で叫んだ。
俺は答える言葉を探す。
「だから…、奈々にはフラレる。目に見えてる。それでも、俺は、記憶をなくしていた間の、もう一人の俺の気持ちを受け止めていたい。それも俺だ。
俺は二重人格じゃない。元に戻っても、思い出した記憶の中の自分を否定できない。
…ごめん、里英。俺につきあってくれなくていい」
口に出して言ったら、それが今の俺の気持ち、全部だった。
里英はぼろぼろ泣いて。
記憶喪失にならなかったら、こんなに泣くほど、俺に惚れてくれていなかったようにも思う。
あいつが奈々を想うように、里英に惚れていたかもしれない。
もしも、なんて、そんな都合のいい話はない。
今、目の前にあることが現実で、すべてだ。
この決断をいつか悔いることがあっても、今を決めたのは俺だ。
「…遥、変わったよね。前はもっと軽い感じだったのに。ひどい…」
「どれだけ責められても憎まれてもいい。
けどな、俺は俺で、一つの顔しか持ってないわけじゃないし、いつまでも同じでいられるわけでもない。
里英だって…」
俺は最初の印象とは違うって言葉を飲み込んだ。
なんか…わからないけど。
日記の中であいつが似たようなことを書いていた気がする。
俺は俺だと。
俺は里英に思いきり頬を叩かれた。
叩かれた頬をおさえて、里英を見ると、里英は思いきり俺を睨んでいた。
そのまま何も言わずに、俺に背を向けて歩き出して。
憎まれる結果しか出せない不器用な自分を恨めしく思う。
あいつはこんなふうに里英に叩かれることなく、里英と別れたんだろう。
そう思うと、もう一度、あいつになりたい気がしてくる。
頬は痛い。
奈々に殴られた以上に痛い。
それだけ、本気で叩かれた。
それだけ、本気で俺に惚れてくれていた。
ごめん、里英。
俺は今度はまた奈々に殴られそうな気がして、大きく溜め息をつく。
それでも…言わないと。
あいつの、俺の…。
なんか俺、女に殴られていじめられてばっかりなんじゃね?
カッコ悪い。
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