【Diary】

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あたしと遥は何もなかった 俺の記憶の中のセックスについて問い詰めた時、奈々は俺にそう答えた。 けど、からかうわけでもなく、真面目な顔を見せて言うから…。 そのセックスに奈々の感情が何もなかったとも思えなかった。 それをなかったことにしようとするのは、思い出したくないのか、それとも俺に思い出させたくないのか。 どちらにしても、あいつと俺は奈々の中でも切り離された存在には変わらない。 俺だって、その存在を俺自身だと思いながらも、もう一人の俺として受け止めている。 奈々はどっちの俺が好きなんだろう? そう思うのは無意味なことかもしれない。 俺が好きだと言っても、あいつが好きだと言っても、奈々はそれを真実として受け止めることがないのだから。 嘘にはされたくない。 あいつはもういない。 俺が言わないと。 …今の俺は、奈々を好きだと言えるのか? 嘘ではないのに、迷う気持ち。 それは、俺が奈々をそういう目で見たことがないから。 そういう目で見ることができれば…。 俺はあいつと同じ気持ちを抱けると思う。 もう一度、好きになりたい。 俺は土曜に、『明日の朝6時、公園で会おう』と呼び出し文を書いて、奈々のロッカーに放り込んでおいた。 ラブレターみたいなものは俺と奈々の間にはない。 待ち合わせなんて、果たし状かよっていうくらい素っ気ないものだ。 それが俺と奈々。 あいつが羨むほどに、ただの友達。 友達以上に親しいとも言える。 会いたいと、あいつの日記の声が俺の中に響く。 伝えたいと、事故の時のあいつの感情が俺の中に蘇る。 あの事故であいつは死んだ。 だから今の俺が生きているかのようにも思う。 俺はあいつで、あいつは俺で。 あいつのふりをしてやってもいい。 奈々の奴隷になってやってもいい。 一方的な呼び出しは俺の専売特許。 奈々はくる。絶対に。 だから…、会えるよ。
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