【Diary】

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3月とはいっても、まだ朝は寒い。 昨日の夜には、今年最後の雪が降って、足元は薄く白い雪が積もっている。 空からはたまに雪のカケラが舞い落ちる。 俺は朝5時半に起きて、顔を洗って身支度を整えると、そのまま家を出た。 コートのポケットに手を突っ込んで、寒さに白くなる吐く息を見ながら、まだ薄暗い住宅街を歩く。 俺と奈々が公園と言えば、いつもの公園。 公園の中、噴水の前が待ち合わせ場所と決まっている。 この時期、さすがに噴水の水は止まっているけど。 俺が時間通りに公園にたどり着くと、奈々はもうきていた。 相変わらず遅刻をすることがないやつだ。 雪の上、足跡を残すように歩いて、立ち止まって顔を上げる。 そっちに向かっている俺に気がついた。 「遅い」 奈々はいつものように俺に言ってみせる。 「待ち合わせは6時って言っただろ?おまえが早いんだよっ」 俺は奈々のそばまでくると、それを見下ろし言ってやる。 朝には弱い。 そこはあいつと変わらない。 けど、待たせて凍えさせないように、時間は守った。 「まぁ…、遥にしては早いから許す。寒いから早く話して帰ろう。それでなんの話?」 まったくもって奈々はいつもと変わらない。 俺を避けていたくせに、何かを気にした様子も見せない。 俺は何をどこから話していいのか迷う。 とりあえず…。 「……ごめんって…謝ろうと」 俺は顔を見せることもできずに、俯いて言った。 「なにが?」 なんて、まったく何もなかったかのように、奈々は聞いて。 またこいつは、俺の記憶を、あいつの気持ちを何もなかったと言うつもりなのかと、俺は少し不機嫌に顔を上げる。 奈々は目を丸くして首を傾げる。 本気で何も思ってないし、何もわかってない顔だ。 「…っだよ、それっ。なんでおまえ、なんにも気にしてないわけっ?」 言ってやると、奈々はその視線を泳がせ、少し考える。 「気の迷いでしょ?」 なんて出てきた奈々の答え。 キレた。 「ムカつくっ!そりゃ、俺の記憶なくなってたし、おまえとどういう関係だったか覚えてなかったけどっ。俺のこと全部弄んでたみたいなその言い方、すっごいムカつくっ!」 俺は声を荒くして言ってやった。 あいつは奈々に本気で惚れていた。 それは俺が一番よく知ってる。 弄んだだけとは言わせたくもない。
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