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「だから、遥の気の迷いだって言ってやってんじゃないの。なに?朝からフラれにきてやったのに、そういう態度?」
俺がキレたこともたいして気にしない様子で、奈々は言ってくれて。
俺の気の迷い?
フラれに来た?
それって…やっぱり、どう考えても、奈々があいつの言葉を受け止めていなかったと思わせられる。
言わないと。
あいつの…俺の…。
「……違う。うまくは言えないけど…、俺……奈々のこと……」
俺は言葉に迷いまくって、なんとかあの気持ちを伝えてやろうとした。
俺じゃないあいつはこう思っていた、なんていう言い方ができればいいのに、それもまた誤解を招きそうで。
きっとあいつなら、もっとうまく伝えているんだろう。
俺は必死に考えながら言葉を紡ぐ。
俺の言葉を止めるように、奈々は声をあげた。
「あたしに怯えていたもんね?好きなわけないって」
奈々は明るく言ってみせる。
それはきっと、何もなかったと言われるよりはマシなのだろう。
奈々に怯えていたのは確かだ。
こわいと日記にあった。
でも…。
好きなんだ。
あいつは、奈々のことが好きだから、俺は奈々の記憶だけは忘れられない。
奈々に言ったところで、意味不明だろう。
俺もどう伝えてやればいいのかわからない。
俺の気持ちで、俺の言葉で、好きだと奈々に言えればいいのに。
それは俺の気持ちではあるけど、俺ではない。
心の底から、愛してると言うような、そんな深いもの。
その気持ちをあいつのかわりに言ったところで、伝わりそうにない。
伝えて…やりたいのに。
「もう……気にしないで」
「……気にする」
俺が当たり前のように言ってやると、奈々は俺を強く見てくる。
あぁ。また叩かれる。
おとなしく、叩かれてやるつもりだったのに。
「じゃあ…あたしの足、舐められる?」
奈々は俺にそう言った。
あいつが奈々の足を舐めるような、そんな下僕だったのは知ってる。
俺はあいつのかわりとなり、俺の家、俺の部屋に奈々を入れた。
奈々の靴下を脱がせていると、不意に蘇った記憶。
…初めてあいつが奈々とセックスしたときのこと。
同じ言葉で誘われた。
俺はどっちに受け止めるべきか迷いながら、冷えた奈々の足を温めるように包む。
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