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奈々のその爪先を撫でて、そこにキスをした。
俺は…、奈々の奴隷ではないけれど。
奈々とセックスすることで、あいつのように俺の存在を感じたいとも思う。
俺は、俺として、ここに生きて、奈々のそばに俺の居場所を見つけてみたい。
両手で奈々の足を支えて、その指に舌をあてる。
俺はあいつのようにはできないだろうけど。
嘘にはされたくない気持ちが、俺にもう一度、奈々に惚れたいと思わせる。
奈々の顔を見ながら、その足を丁寧に舐めて、俺はそのまま、奈々の体を倒して、奈々の顔の脇に肘をついて、キスをしようとした。
俺の唇、奈々の手の平にふれた。
「……もういいよ。痛いだけ。胸が痛い。いらない」
「誘ったのは奈々だって諦めろ」
俺が欲しい。
奈々にとっては、よく知った俺の体だろうけど、俺もその体、記憶はあるけど。
俺にとってはこれが俺の童貞だ。
…苦しめたいわけじゃない。
俺の気持ちを、あいつの気持ちを受け止められたい。
その胸の痛みは、無意味なものだと、わかってもらいたい。
俺はここにいて、あいつもここにいて、奈々だけを見ている。
「……」
奈々はその顔を隠すように、目のあたりを両手で隠す。
震えているその唇にキスをした。
俺にとっては初めての奈々とのキス。
俺の唇が、その唇を覚えてる。
優しく、甘く。
そう。駅でキスをした時のような…、ずっとふれたかった唇。
伝わる、奈々の気持ち。
俺の想いも、あいつの想いも、すべてこの唇から伝わればいいのに。
奈々は泣いてる。
泣かせたくて、キスをしたわけじゃない。
泣かせたくて、セックスを望むんじゃない。
笑って…みせてほしい。
俺は唇をはなして、奈々の頬の涙を拭う。
「…奈々、かわいい。震えて拒絶してるのに…俺がほしい?」
唇から伝わった、その奈々の想いを口にした。
奈々はその顔を隠したまま、何も答えなくて。
「抱きしめてくれたらやめてやる」
奈々は俺の背中を強く抱きしめた。
これが最初で最後のように。
俺はその奈々の頭を、髪を鋤くように撫でてやる。
抱きしめてくれるのに、突き放されてる。
なぁ、奈々?
俺を見て。
ちゃんと見て。
俺の気持ち、駆け引きなしにまっすぐに見て。
俺はおまえを傷つけたがってるように見える?
見えるなら、おまえの目は節穴だって言ってやる。
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