【Diary】

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「これって…、遥が記憶喪失のときに書いていた日記?」 奈々は少し読むと、俺にそう聞いてきた。 「今の俺がそういうもの書くように見えるか?」 「…ないね。遥にこんなかわいらしさがあれば、こんな時間に呼び出さない」 奈々は頭を横に振り、息を一つつくと、日記を読み進めていく。 時間は夜の10時だ。 明日はどうせ学校は休み。 俺の部活も昼から。 夜道を一人で歩かせるなんてとは言わせない。 10分も歩けば家はある。 あいつはその距離でも、奈々に会えないような、かわいいやつだったようだ。 部屋の扉がノックされて、母親が俺の希望どおりに配達にきてくれた。 「奈々ちゃん、遥に変なことされそうになったら悲鳴あげてね」 なんか余計なことを言ってくれる。 奈々は日記を閉じて苦笑い。 その日記を読めば、奈々が俺に「変なこと」をしていたのは丸わかりだ。 奈々には俺に抵抗する術はない。 母親が部屋を出ていくと、奈々は俺を見てくる。 「…これ、読んだ?」 「読み終わったから読ませてる。まだ続きあるだろ。全部読めたら感想よろしく」 俺は配達されたホットコーヒーに口をつけて言ってやる。 奈々は俺の言うとおりに読み続けた。 俺はその間、何も言わずにいた。 奈々は泣く。 俺もあいつも奈々を泣かせるのが得意なようだ。 俺は奈々の横にティッシュを置いて、あとは放置。 コーヒーが完全に冷めきった頃、奈々の手元のノートは最後のページになっていた。 「馬鹿…」 奈々はティッシュを握って、ぼろぼろ泣きながら、呟くように口にした。 あいつに言ったのだろう。 「で、これがさっき見つけたクリスマスプレゼント」 俺は奈々の前に手を差し出す。 奈々がその手を受け止める形にすると、俺はその手の中に指輪を転がした。 奈々はそれを見て、その指輪を強く握りしめる。 「俺はあいつじゃないし、おまえもあいつが俺じゃないとはわかってるだろうけど、俺は残念ながら二重人格じゃない。 あと、俺もおまえのこと好きだから。その答えが欲しい」 「そんな淡々と言わないでよっ」 「淡々と言える程度になれたと思え。それを読んで、おまえか、俺か、どっちが複雑だと思う?」
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