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奈々は日記を閉じて、手の中の指輪を見つめる。
俺は奈々が何か言うまで、ただ黙って、その奈々の手を見ていた。
奈々に日記を読ませるつもりはなかった。
まったくの別人が書いたものでもない。
俺の意思はそこにはなくても、俺が書いたもの。
あいつが俺だという感覚はなきにしもあらず。
一言で言えば、そんな日記は恥ずかしい。
でも指輪を見つけて、奈々に渡すことを考えたら、あいつを思い出した。
説明はうまくできないから、奈々にその存在を理解してもらおうと、日記を読ませただけだ。
「……そこにいる遥はあたしのこと、別に好きじゃなかったじゃない。ただの友達」
「なに?俺が今言った言葉を嘘にするつもり?」
「だって…」
奈々は俺の視線から逃れるように俯いたままで。
俺は奈々の顎から頬に手をあてて、その顔を俺に向けさせる。
その目は不安そうに俺を見る。
「もうおまえの中では終わってる?ちゃんと答えろよ?俺は日記の中のいい子なかわいい俺じゃない。答えによっては…どうしてやろうかな」
「今の遥だって、あたしの爪先にキスして服従したくせにっ。…だから…、好きじゃなかったら…、遥にあんなこと望めない」
「あんなこと?」
俺は奈々に言わせようと聞いて。
奈々は悔しげに俺を見る。
「キスもえっちもっ。…言わせて恥ずかしがらせようとしてるでしょ?…最低。コーヒーもらったら帰るっ」
奈々は俺の手を振り払って、冷めたコーヒーに口をつける。
俺になんの警戒もしていない背中を向けて、言葉もまたかわしてる。
里英は曖昧を嫌い、奈々は曖昧にして逃げようとする。
俺は奈々の背後から、その体に腕を回した。
奈々は驚いたようにコーヒーカップをソーサーに戻す。
俺はそんな奈々の髪をかきあげて、首筋を晒させて、そこに唇を押し当てた。
「悲鳴…あげてやる…」
奈々は真っ赤になって一つも抵抗なく、言葉だけは強気に言ってくる。
「はっきりと言えば?答えによっては…って言ってんのに、かわしてるおまえが悪い」
「……好き。かわいい遥……」
納得できない。
俺は自分でも、奈々に対しては、けっこうな俺様だと思う。
そんな俺が好きだと言わせないと気が済まない。
頭ではわかっている。
そういう目で奈々を見ると、そういうことかと理解はできている。
だから日記を読ませてやれたともいう。
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