【Diary】

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けど…。 奈々がきて、その顔をまっすぐに見たら、俺の中、知らないはずのものがどんどん出てきて。 俺の記憶はないのに、記憶がある。 そこに俺の意思はないのに、記憶があるといったほうが正しいのかもしれない。 その気持ち悪いものはやけにリアルで、そんなはずはないのに、確かに記憶があって。 奈々を問い詰めてやろうとしたら、俺は思いきり頬に平手をくらった。 奈々は何もないと言い張った。 強く言われれば、言われるほどに、俺の記憶が蘇る。 俺は、記憶のない間に、奈々とセックスをした。 意味がわからない。 でもかなりリアルだ。 奈々は否定しまくってくれたけど、それは確かなことなのだと俺は思う。 奈々の太股に2つ並んだホクロ、背中にある小さな傷。 奈々の喘ぎ声、俺の背中を抱く腕。 そのふれた感触、その体温、その力強さまでも。 こわいくらいに鮮明に覚えている。 奈々以外の他の誰にも確認とれないもの。 正直、気持ち悪かった。 そのあと、奈々が見舞いにくることはなかった。 俺も思い出したくもなくて、来なくていいとも思った。 それでも確かに記憶がある。 退院して、自分の部屋に帰ると、全身に鳥肌が立った。 知らない、俺じゃない俺の記憶。 奈々ばかり。 この部屋で奈々とした。 目を背けたくても、そこにその日の光景が俺の目に浮かぶ。 里英ならよかったのに。 なんで奈々なんだよっ? 俺は奈々のこと、そんなふうに見たこともないっ。 記憶をなくした俺に言ってやりたくても、言ってやれない。 俺は俺のはずなのに、もう一人の俺がいるような感覚。 奈々に惚れている、もう一人の俺。 そんなもの認めてやりたくもない。 二重人格かと思えるような、そんな気持ち悪いもの。 俺はこわかった。 俺の机の上、見慣れない、出しっぱなしのノート。 開いた1ページ目。 『また記憶をなくしても思い出せるように、日記をつけることにした。 俺は前の俺がどうだったのか記憶がない。 俺は俺がどうあるべきなのかわからない。 自分の名前も、親の名前と顔も、友達もわからない。 俺はどうすればいいのか、何もわからない。 だから俺はここに今の俺を残す』
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