【Diary】

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本当に…気持ち悪い。 俺は知らない。 知らない俺が書いた、俺の日記。 記憶を失っていた頃のこと、何を思い出すでもなく、奈々だけは俺の中に蘇るのに、こんなものを書いていた記憶も、里英と過ごしていた記憶も、他のものは何も思い出せない。 その日記、読むことなく、捨ててしまおうかとも思った。 俺は机のそばに立ったまま、次のページをめくった。 『11月18日 今日から日記をつける。 記憶喪失と言われて、検査だかなんだかで1週間入院させられていた。 記憶喪失って言われても、わけがわからない。 ただ、なんかこわい。 俺は俺なのに、前に俺がいて、今の俺は俺じゃないって感じでまわりに見られる。 親と言われても、そんな人知らないし、ここが俺の家と言われても、俺は居場所がないように思う。 明日から学校。 そこもまた俺の居場所はないんだろう。 行きたくない』 奈々の名前は一つも出てこない。 こんなに記憶があるのに。 俺はもう一人の俺の書いた、その日記を読み進めた。 『11月19日 学校、知らない人間ばかり。 前の俺を知ってる、俺の友達らしい人が声をかけてくる。 俺がかけられる声に嫌な顔を見せたら、あの人が俺を見てる。 なんで同じクラスにいるの? おかげで俺は、あの人がこわくて、かけてくる声に無視もできない。 奈々。 俺は、あの人がこわい』 なに?奈々のことこわがってるくせに、なんでセックスしてんの、俺。 俺は日記を書いた俺が、何をどう思っているのか、他人の日記を読むような感じで読み進めてしまう。 気持ち悪いけど、それは俺の字で、確かに俺で。 俺は俺に共感してしまう。 記憶喪失なんてわけがわからない。 まわり、全員知らなければ、初めて会った人ばかりで。 初めて会っても、俺を知ってるなんて気持ち悪い。 こわい。 俺は俺がわかるような気がする。 この日記を書いた、俺の気持ち。 俺じゃない俺の、2ヶ月。 ……なんか、おもしろい。 俺は最初の恐怖もどこかに消えて、ノートを手にしてベッドに座る。 俺の目は続きを望んで読んでいってしまう。
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