カケラ 第3話

【Diary】

『11月20日
里英という子が俺の彼女らしい。
知らない。
そう言われても、今の俺は里英のこと好きなんて言えない。
はっきりいってどうでもいい。
里英から声をかけてくることもない。
前の俺がどうだったかなんて関係ない。
俺は俺のことで精一杯だ。
そしたら、昨日、一言も話さなかったのに、あの人が言った。
里英と仲良くしろって。
その言葉は絶対で、俺は仕方なくいうことを聞く。
あの人が彼女、そっちのほうがまだよかった。
あの人はこわいけど、入院している間に、それにもけっこう慣れた。
退院のとき、あの人の言った足を舐めろってどういう意味なんだろう？
あ。でも、あの人の足はけっこう綺麗だと思う』

ちょっと待て。
なに下僕になってんのっ？
奈々のやつ、やっぱり記憶ないからって俺をいいように扱って…。
そこまで思って、強く俺とのセックスはしていないと言い切った奈々を思い出す。
…だったら…、それをネタにからかってくれればいい。
そのほうが…。

『11月22日
昨日は休みでひたすら寝てた。
三日坊主になりそう。

あの人は見るだけで、俺に声をかけてこない。
俺にどうすればいいのか教えてほしい。
学校で声をかけるなと言われたから、あの人に声をかけてない。
いじめられるのはいやだ。
でもあの人が何も言ってくれないのも不安になる。
俺はあの人の奴隷のはずなのに。
里英とのつきあい、一緒にいればそれでいいのか聞きたい。
あの人はきらいだ。
きっとこんな俺を楽しんでる』

『11月25日
同じ毎日で書くことがない。
俺は前の俺にはなれないのに、まわりは前の俺に戻ればいいのにって言う。
戻れってなに？
俺は俺なのに。
前の俺と俺は違う人間なのか？
なに？二重人格？
俺は俺だ。
俺を俺として見てほしい。

俺は誰？
俺はなに？

書いてることも意味不明になってきた。
でもたぶん、俺にはわかる。
俺だから。

二重人格なんかじゃない。
それだけははっきり言ってやれる。

記憶戻ったら、今の俺じゃなくなる？
俺は俺の記憶はなくなる？
俺は俺として必要とされたい。

やっぱり書いてることの意味がわからない。
もう寝る』