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『芙由はどうなる?』
…意外と優しいんだね。
友達もたくさんいたというし、中原を殺そうとしたのは忘れてあげる。
…大丈夫。
僕と中原はつきあってもいない。
僕がいなくなれば、中原はまた違う恋愛を始めていく。
君に願うのは、僕のふりをして中原に構ったりしなくてもいいよってことかな。
下手に構わなくても、中原ならすぐにいい彼氏ができるよ。
『芙由を置いていくな。そんな話、話してもいないだろ』
話してない。
……願うなら、中原が本当につらいときには、僕がそばにいたい。
でも君にそれを求めたりはしない。
君には中原に近づいて欲しくない。
『俺が近くにいなければ、俺の中でうっすら浮いて、芙由を見守ることもできないだろ。芙由がいつ本当につらいと思ってるかもわからないだろ』
わからないんだろうね。
でも僕はそれでいい。
たまにはこのアルバムを開いて、中原を見せてくれればそれでいい。
僕の指は中原の写真を撫でる。
ぽとりと雫がその写真の上に落ちる。
消えてなくなること。
こわいと思う。
でも…大丈夫。
僕の耳には中原の声が残ってる。
大丈夫だよ。
何度も言ってくれたその声が残っている。
僕の鼓動がとくんとくんと胸の中で刻まれる。
水着姿の、浴衣姿の、文化祭の、体育祭の、いろんな中原が浮かぶ。
初めて恋をした。
初めてキスした。
「さよなら。ありがとう」
僕はアルバムの中の中原に告げて、そのまま途切れる意識に身を任せる。
楽しいことも、つらいことも。
君が生きて。
僕はたった一つの恋だけでじゅうぶん。
それでも…、中原。
君がどうしてもつらくて苦しくてどうしようもないときは。
僕を呼んで。
きっと、僕は君に会いに行く。
ただ一人の僕の大切な人だから。
弱いばかりの僕でごめんね。
それでも君を抱きしめて、癒してあげる。
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