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中原と院内に飲み物を買いにいって詳しく話を聞いてみた。
自販機の横のベンチに座って、僕は言い出しにくそうな中原の言葉をただ待つ。
…生き残ってしまった気分だと彼は言っただろうか。
沙良は生きているけれど、あれは薬ですべての感情の起伏を消されている。
ひどいストレスを感じて堪えきれなくて壊れてしまったように見える。
僕は…壊れる前に別の人格をつくり出した。
それも壊れていると言えるのかもしれないけど。
沙良のようになる前の自己防衛がそうだったのかもしれない。
解離性同一性障害、記憶障害を僕は持つ。
「沙良先輩と涼宮先輩は心中しようとしたの。あたしはお見舞いにもいけなかったし、お兄ちゃんから聞いた話だけど。…沙良先輩は壊れちゃった。髪の毛、全部抜けて、あんな真っ白な髪の毛はえてきて。鬱症状とヒステリー繰り返して…。
涼宮先輩がくればきっと元の沙良先輩に戻ってくれるって思った。
でも学校にきた涼宮先輩は涼宮先輩じゃなくて、スズだった。あたしのことも覚えてないし、なんにも覚えてなかった。
いつ思い出してくれるのかなって、沙良先輩と涼宮先輩のようにデートしたら思い出してくれるのかなって…」
「……二重人格だよ、僕。完全に涼宮先輩でいた記憶はない」
「うん…。それもちゃんと理解したよ。スズっていう人格、あたしは好き。涼宮先輩に憧れた気持ちより身近で好きになっちゃった。
でも…、スズは涼宮先輩で、涼宮先輩はスズなの」
否定はできなくて、僕は頷く。
もう一人の僕が受けた心的外傷を僕が引き受けている。
今の状態をそう思う。
それでも彼は強いから。
僕のように忘れた、封じた記憶にはしていない。
中原が僕にしてほしいことは、だけど、僕を認めながらも、僕ではない彼がしたことで。
沙良の心を戻してほしい。
…わかっていても、中原といたい僕がいる。
すべてひっくるめて、それでもと中原のそばにいることを求められない。
それでもと…そばにいたい弱い僕もいるけれど。
彼は出てこない。
あんなに自己主張激しいのに、僕に沙良をどうしてほしいのかも言わない。
消えたように引きこもってる。
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