20人が本棚に入れています
本棚に追加
沙良の手が僕の服を強く掴む。
掴んだまま沙良は言葉を止めて。
僕は沙良の服のボタンを一つずつとめていく。
「…大好きなお父さんとお母さんに殴られるくらい怒られて、大好きな人との子供は流れて…。沙良は誰を憎んだの?」
「……誰も憎めなかった。生きているのがいやになった。そしたら…一登が一緒に死のうかって…」
沙良の涙は溢れて僕の手に落ちる。
「死ねなかった。彼とは病院に入れられて、会うこともできなかった。それで沙良は大きなストレスをたくさん持ったんだね」
沙良は頷いて鼻をすすり、僕の頬に手を当ててその視線を合わせてくる。
「一登はいなかった。同じ顔、同じ体、でも中身は違うあなたがきてくれた」
「僕は彼を連れてきたんだよ」
「あたしの精神的な重いものを取り除いてくれたのは…あなただよ。今、少しはまともに話せてるよね?あたし。あなたがこうしてくれた」
「僕は君と一緒にいただけ。…うん、大丈夫。もう治ってきたね。薬なくてももう大丈夫だよ」
「違うの。…うまく言えないけど、違う。
……あなたがいなくなること望んでない。あなたはあたしに理解をくれる。どんなあたしでも、すべてあたしと受け止めてくれる。あなたの優しさに包まれて、安心して…。だから……」
沙良は上手く言葉をまとめられないというように言葉に悩む。
それでもその気持ちは幼児の言葉でも聞いているからわかっている。
そこを応えたら、沙良がまた壊れていきそうで僕もうまく言えない。
「君には彼がついているよ。彼は君にひどいことする?」
「……鈴のふりして手を出してきた」
沙良はものすごくそれが嫌だったみたいに言ってくれる。
僕のふりをして…。
それは知らなかった。
…沙良がこんなふうに言ってくれるから、彼は少なからず僕に嫉妬しているのかもしれない。
だから僕のふりをしたのかもしれない。
「おまえがスズになつきまくっているからだろっ」
僕の口は勝手に動いて、彼の言葉を話した。
僕は驚いて、自分の口を塞ぐ。
動く。
僕はまだ表にいるようだ。
「…嫉妬カッコ悪い。カズがあたしに会いにこないで逃げていたくせに」
沙良も彼の言葉だと気がついて不機嫌に言い返す。
そのとおりだなと僕は思う。
最初のコメントを投稿しよう!