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彼が引きこもらずに、すべての沙良を受け止められていれば、僕が沙良に接する機会はもっと少なかったはずだ。
少し待ってみたけど、彼は言い返す言葉もないらしく、黙る。
「……鈴もあたしのこと好きになって。そうしたら…」
沙良は彼に更に妬かせるつもりか、僕の首の後ろに腕を回して、キスを求めるように顔を近づける。
僕は沙良のその目を見つめ返し、沙良の唇に指を当てた。
それが平和な解決策かもしれない。
だけど…僕は僕の恋を譲れそうにない。
中原。
その面影がすぐに浮かぶ。
心が震える。
会いたい。
最後になってもいいから。
もう一度会いたい。
「ごめんね、沙良。僕は彼じゃない。キスするなら彼を呼んで」
「……鈴は…好きな人、いるの?」
それを応えて、沙良の状態がまた悪くなったらいやだなと思う。
大丈夫。
中原と僕はつきあっていない。
僕が消えても大丈夫。
中原は僕に沙良のことを思い出すように望んでいたから…大丈夫。
僕が消えても元に戻るだけ。
僕は沙良に答えることなく、彼も出てこないから、そのまま沙良の部屋を出た。
会いたい。
恋しい。
僕と中原の思い出の写真は卒業アルバムの中。
それ以外にはどこにもない。
家に帰るとアルバムを開いて、そこにいる中原に会う。
その写真を指で撫でて、これでいいんだと自分に言い聞かせる。
カズ、僕を消して。
君には強い意志がある。
沙良はもう大丈夫。
君がずっと表にいればいい。
『おまえが受け止めろ。俺は死んだ。沙良にも俺が死んだことにしてしまえ』
彼は久しぶりに僕に言葉を返してくれた。
君は沙良を抱く。
もういいんだとは思っていないだろ?
僕にわかるように、その証拠のように、僕が意識を戻す。
君はわざとやっているんだろ?
『沙良はおまえという人格に癒されている。俺にはできなかった。おまえが眠った夜に起き出して、沙良に会いにいったこともある。でも沙良は俺になんの反応も示してくれなかった』
子供みたいに拗ねて嫉妬してどうする?
僕に沙良を任せることができないのは、君のほうがわかっているはずだ。
『芙由か。……妹みたいで可愛いと思ったことはある。でも俺には沙良がいる』
うん。
中原は大丈夫。
君が気をかけなくていい。
沙良を大切にして。
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