信長のダチ

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  「な、長秀殿ー!」  1576年正月、安土城普請が始まって1ヶ月程後のとある日。安土の山に、羽柴秀吉の叫び声が響いた。 「長秀殿、長秀殿はおられるか!」  安土の山には、建設のため土地の検分に多くの大工が集まっている。どこに城を建てるか、そこは建設に適した土地であるか、一世一代の大仕事のため、皆慎重に話を進めていた。  その中を、秀吉は走る。小柄な身体で大工達の間をすり抜けながら、左右を見渡し目的の顔を探す。安土城の普請奉行である人。見た目からは苛烈な織田軍の一員とは思えない、穏やかで笑みの絶えない壮年の男。秀吉の羽柴という名字は、彼の名字から一字貰って作ったものだ。とにかく急いで、秀吉は彼に伝えなければならない事があった。  と、秀吉の目に、ようやく目当ての人物が入る。秀吉は大きく手を振り、息を切らしながら彼の元へ駆け寄った。 「長秀殿、ようやく見つけた! 大変じゃ、信長様が――」  そこで秀吉は気付く。彼の隣に、見覚えのある人物が立っている事に。人とは違う険しい雰囲気、自信に満ち溢れた表情。秀吉は頭が真っ白になり、白目を向きながらその場に崩れ落ちた。  
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